第40話「托卵」

 森林の中を数分歩くき、モコとバイラが住んでいる巣に着いた。巣とは言っても大木内をくり抜いて居住スペースを築き上げている何とも味のある家だ。モコがコウモリゆえの対処か、天井部分には岩肌でも意識したような削り跡が施されており、内部は結構暗い。


 普通、コウモリは野生だと聞く。昼間でも活動してる事に多少違和感を感じたが、人間態を手に入れる事でどちらも適度に対応できるようになったそうだ。


 まるで鳥の巣のように草木が盛られた寝床らしきものが置いてある。卵の欠片が置いてあるのは記念品として取っているのだろう。他には、外界から手に入れたのであろう物資が戦利品の様に並べられている。まさかこれはあのチート能力者達から奪ったのだろうか


「はぁじめましてぇぇぇぇ、バイラ・タフですぅぅぅぅ!」


 芋虫っ娘のバイラが涙目のまま改めて自己紹介。喋り方が半分泣き気味だが、こちらは変身を解いているというのにまだ泣くとは、余程泣き虫らしい。


「ピヤァァァァお化けじゃないぃぃぃぃぃ!」


 確かにお化けじゃないが、何故まだ泣いている? しかめっ面はしていないつもりだが、怖くは無いだろう?


「じゃあ、話をしましょう」


 泣きじゃくるバイラをなだめつつ、モコは詳しい事を話してくれた。


 この異世界の大半を侵略した奴らが次に目を付けたのは、妖精やエルフ、獣人が済むこの森を侵略のターゲットに定めたらしい。


 当初は350人で攻め込み、森の住人達は必死で抵抗したが、勝てるはずもなく追いやられて森の奥深く潜る事になる。しかし、モコだけは音速で飛行できる利点を生かし、超音波と交えてチート能力者に必死の抵抗を続けた。その結果、150人を殺し、彼等が異世界に転生したチート能力者であることを聞きだした。


「よく殺せたな? チート能力者の前には、原住民は太刀打ちできない筈だが」


 まさか自分以外にも異世界チート転生者に対抗できる者がいるとは思わず、内心動揺している。まるでアイデンティティを否定されたような気分だ。そのせいなのか彼女に対して多少の嫉妬と尊憧の入り混じる感情を抱いてしまう。


 いや、原住民で対抗できる存在がいるのは実に喜ばしい事だ。理解はしているが、自分の人間的部分がどうしても黒い感情を生み出さずにはいられない。所詮は自分も人間の一部である事を突きつけられている。


「最初は私も絶対に勝てないと思っていたわ。だけど、空の理を活かして妨害攻撃をすれば、空を飛べないあいつ等に抵抗できることがわかり、隙を突いて牙や爪、超音波で葬ったの」


 確かに彼女が繰り出すソニックブームと超音波攻撃はかなりの威力だった。暴風と砂嵐を巻き起こして周りの環境を一時的に悪化させる戦法。いくらチート能力でも限界はある。この異世界にいる奴らは、自然の力を利用した戦い方には馴れていなかったか。


「私はこの子を、バイラを守りたいの。たった1人の家族だから、何が何でもこの子を守り抜くわ。だから森も守らないと」


 ようやく泣き止んだらしいバイラの頭を指で滑らかに、優しく撫でて微笑むモコ。その表情は心の底から慈愛に満ちている。こちらの顔も思わず綻ぶ。

 バイラは泣き止んでもまだ目がウルウルと潤んでいる。そして、バイラを愛でるような視線で眺めていたネアが何かに気付いたように彼女に質問を投げかけた。


「あの~モコさん? ずっと気になってたんだけどね? 何でバイラちゃんと一緒に住むことになったの? 貴女はバット族で、バイラちゃんはモス族だよね?」


「ああ、この子は私の弟よ」


 ……聞き間違いか?


 聴覚回路と言語解析機能、翻訳機能が故障したのか?


 今……弟と言わなかったか?


「あの、失礼ですけどモコさん? この子は……女の子ですよね?」


 コルラが手を上げながらおずおずとモコに尋ねる。


「え? ちょっと何言ってんのよコルラネエさん? この子男の子でしょ?」


「何を仰るのよピーコくん、どう見たって女の子でしょう?」


 潤んだ瞳のバイラを全員で眺めてみる。この雰囲気と喋り方。可愛らしい見た目的にも女児だろうこれは。


「「「どっちだ?」」」


「わかんないのぉぉぉぉぉ? ぴやぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 こちらの問いに、バイラは泣いているのか標準なのかわからない叫び声を上げる。


「だから、この子は私の弟、男の子よ」


「「え˝」」


 男の娘というやつか……。先入観とは恐ろしい。ちゃんと視界にデータが表示されてたのに気付く事が出来なかった。


「で、話を戻すけど。どうやって一緒に住むようになったの? 弟って言ってるけど種族が違うよね。義姉弟の契りでも交したの?」


 ネアの言う通りだ。普通に姉弟と発言しているが、そもそも種族が違いすぎる。1つ屋根の下に暮らし続けていたのなら家族と呼べるが。


「弟よ。だって一緒の巣で生まれたから。誰が何と言おうと私達は姉弟であり、バイラは私の弟なの」


 荒唐無稽で無茶苦茶だ。あのネアが苦笑いを浮かべてるぞ。少年は聞こえない様に「バッカみたい」と呟やいている。先程からいったいどうしたのだろうか。もしやこのコウモリ少女が気にくわないのだろうか?


 モコには申し訳ないのだが、正直に言えばバイラの卵が彼女の巣に托卵されていただけではないだろうか。同じ巣で生まれたから弟だというのは論理的ではなく強引過ぎる。


 まて。これがいわゆる刷り込みか。このモコを半分鳥類にカテゴライズするなら、鳥の刷り込み現象により、この芋虫男の娘を弟だと勘違いしているのか。動物の習性なら仕方がない……。


 いや、違う。この2人はそんな種族間など関係なく、固い絆で結ばれているののだろう。バイラも彼女の事を姉と呼び慕っている。双方、姉弟の絆があるのならモコの主張を受け入れるべきだ。


「出た! そんなふわふわしたわけのわからない言葉!」


 私は心を読まれやすいのだろうか? 少年が明らかに嫌悪感を出して叫ぶ。

 何故だ? 彼は異なる種族と家族同然に暮らしているのだから、むしろ彼が一番共感できる立場だと思える。


 何故彼女を敵視しているのか、単に生理的に合わないのか。

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