第38話「豊かな森林」

 瞼に光を感じて目が覚める。朝日だ。ほのかに明るく眩しい。程よい気持ち良さを感じる。

布団を捲ってベッドから起き上がり、地面に足を付ける。日差しが漏れるカーテンを捲り窓から光を受ける。


「朝か……」


 呟きながら朝の空気を吸い、青い空を見上げる。視界に時間が表示される。デジタル風に07:00。この身体にはこんな機能があるのか。まさしく体内時計でな。

 初めてだな。この身体で異世界の朝日を拝むのは。実に感慨深いものを感じる。白い太陽の光が空と山の間に存在している。雲もまばらに浮かんでいる。気持ちの良い朝を迎えた。


 ネア達が起床した後、アンチェイサーとチェイサイダーを取りに向かう。チェイサーに弟は返さなくていいのかと尋ねてみると、どうやら弟も今回から着いてきてくれるそうだ。これからの旅で人を載せる事があるだろうから、これは助かる装備だ。インテリジェントデザイナーも粋な計らいをしてくれる。


「アンチさん。これからどこ行くのですか? まだ決まってませんよね?」


 ネアからの質問に考え込む。確かに行先は決まっていない。これまで偶発的に異世界を行き来してきた。カクヨム空間に行ったときに検索しておけば良かったかもしれん。


《主よ。たまには当てずっぽうで行ってみてはどうだ?》


 チェイサーからそんな発言が飛び出し、思わず彼女の思考を疑った。AIがそんな論理的でない事を言えることに驚いた。


《主、私をただの人工頭脳と思うな。半生物として作られている故、適当で適度な感覚というものが理解できるんだ。当然私の弟もな》


《その通りだよ》


 つまり彼らは人間と同じように適当に流す、適度に力を抜くと言った行為が出来るという事か。なんとも人間臭く情緒に溢れたAI姉弟だ。


《主は知らないかもしれないが、君の身体は無意識の内に異世界チート転生者の所に向かうように出来ているんだ。もちろん、君のために作られた私達も同様だ》


 それは初耳だ。だが、思い当たる節が無かったわけでも無い。ネアと初めて異世界に行ったときは、考えもせずに辿り着くとそこに異世界チート転生者がいた。あれは単なる偶然ではなかったのか。


《適当になにかワードを言ってもらえれば、僕達がそのワードに適した異世界へ運ぶ事が出来るよ》


「そうなのかサイダー?」


《うん。あらかじめ知っていたり登録しておけば、その異世界に行けるから。どうするの主》


 便利な機能が付いているな。ならば、サイダーの提案を受けるとするか。そうだな……。自分が今まで体験していないファンタジー要素を言ってみるか。ゴブリンを見る事は叶えた。


「妖精やエルフ、獣人が住む森とかはどうだ?」


《森か、なるほど。亜人達が住まう森林だな。任せてもらおう》


「ネア達はどうだ」


 掌に置いたアンチバレットコア化したネア、コルラ、ピーコに意見を求める。


「それで構いませんわ。貴方の赴くままに」


「アタシもいいわよ。特にないもの」


 最後にネアに視線を移す。


「アンチさんが行きたい所なら、私は何処でも着いていきます」


「ですってよ大将。よかったわね慕われてて、昨日はアタシをコルラネエさんに押し付けてお楽しみだったみたいじゃない」


 少年の皮肉めいた喋りが発動する。


「誤解を招くような言い方はやめろ」


「あら、だってホントのことじゃないの」


「こ~ら、ピーコくん? アンチ様をからかってはいけませんわ」

「だっから子ども扱いしないでちょうだい!!」


 お喋りが済んだ後、マシンクロッサーに合体したチェイサーとサイダーに乗り込み、指定したワード通り、妖精やエルフ、獣人が住む豊かな森林へ向かう事になった。


 次元の裂け目を通り抜け、着地と同時に目の前に広がったのは、何とも緑の生い茂る幻想的な森。空気も綺麗で、生き物の鳴き声が聞こえる。


「あ~生き返る……」

「はぅん、すごく気持ちですこと……」


 2匹とも表情がほころんで草の生えた地面に寝っ転がる。


 考えてみれば彼女達は森の住人のようなものだ。自然の中の方が安らげるとも言える。周りを見渡すと、色鮮やかな花や木の実が存在しており、どれも見た事のない。草木等も一見すると普通に見えるが、凝視してみると奇妙な形がある。薄らと黄緑色の霧も立ち込めている。

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