第35話「温泉施設カクヨムランド」

 少年は村の人々に武者修行に出ると別れの挨拶を述べて、俺達の一行に加わった。皆別れを惜しむ様に彼と抱擁を交わしている。

 少年はいいところに生を受けたようだ。このように、様々な種族が仲良く暮らしているのは珍しいといえる。


 さて、アンチートガンナーに吸収した生徒達に魂を、カクヨム神の所にまでもっていかねばならん。助け出した良心ある生徒も連れて行ってやらないといけないのだが……。


《3人は無理だ。物理的に》


 アンチェイサーにダメ押しをされた。


 実は反抗した生徒は男女立った2人。2人だけで反抗したのかと思ったが、どうやらこの2人はかなり強い天職に就けていたようで、それなりに善戦出来ていたと言う。


 だがしかし、そこは数の暴力と捕らわれた人々の命で対抗されて止む無く投獄。虐げられる日々を送っていたそうだ。捕らわれていた人々と同じく身体は傷だらけでボロボロ。特に女の子の方は「折角の美人がもったいねえ」と嘆かずにはいられない。

 男の子も必死で踏ん張っていたのであろう。顔つきは高校生とは思えない程険しい表情になっている。この2人の事も含めて生徒達の肉体を再構成、記憶を消去してもらい地球に帰してやらねばないかん。なろう神ぶち殺す。


「まいったな。先に1人を連れて乗り込んで、もう1回戻って連れてくるしかないか?」


「でも、それって凄く遠回りですよアンチさん?」


 ネアが眉間にしわを寄せて指摘する。ああ、かなり面倒だ。


「だがアンチェイサーは2人乗りが限界だ。お前達はアンチバレットコア化してホルスターに収められるが」


「では、彼等もアンチバレットコア化してさしあげればよろしいのでは?」


 コルラがごもっともな意見を提案してくる。そうしたいのはやまやまなのだが……。


「生憎だが、特徴のないヒューマン族はアンチバレットコア化できない。理屈は……造形化できないからだそうだ」


「ええ、そうなんですの!? 初耳ですわ」


「てっきり、誰でもポンポンできるのかと思ってました!」


「そうよね。私もやられたし、そう思ってたわ」


 ネアとコルラが驚きの表情でこちらを凝視する。そう思われても仕方がない。 ちょっとまて、少年の口調がおかしい。遭った時から予兆はあったが、何故よりオネエ口調になっている?


《あ、いや待て主……もう完成しているかもしれんな……》


「何がだチェイサー」


《ちょっと弟を呼んでみる》


 よくわかっていない少年を除き、ネアとコルラと俺は訝しげに声を出した。弟とはどういうことだ。つまり後から作られた兄弟機ということか?

 ならば、インテリジェントデザイナーはアンチェイサーの他にもう1機乗り物を用意しているのか。


《もしもし? 私だ。元気にしているか? そうかそうか。それはよかった。実はな、お前にも来てほしいんだ。人を乗せたいのだが私だけではきつくてな。そうか。ならばすぐに頼む。うん、では後程……》


 まるで家族に電話するような軽い態度で通信しているチェイサー。


《ああ、待っていろ。すぐに到着する》


「そんなに早く来れるのか」


《私と同じ機能が搭載されているからな、ほら……》


 急に空間に裂け目が出来たかと思うと裂け目の中からエンジン音が近づいてきた。やがて裂け目から大きな物体が飛び出して着地。その姿は……丸みを帯びた形と広い座席等……サイドカーだった。


《久しぶり、姉さん》


《ああ、久しいな。紹介しよう。私の弟機、サイドカーの》


《チェイサイダーです。どうかよろしくお願いします。アンチさんと従者の皆さん》


 姉がクールで知的な威厳のある物言いに対し、弟の方は少し気弱で丁寧な口調だな、優しさが感じられる。コイツも半生物の類だろう。それにしてもチェイサイダーと言う名前。アンチェイサーとサイドカーを組み合わせた名前か。


 その後、アンチェイサーとチェサイダーが合体。サイドカー付バイク形態となり、この時の名称は「マシンクロッサー」だと2機から直々に教えてくれた。


 そして、サイドカーに1人を乗せて、1人は後ろに捕まってもらう事で搭乗問題はクリア。無事に裂け目を通ってカクヨム神のいる空間へと突入。男女2人はこの白くて不思議な空間に戸惑っていたが、まあこれからもっと戸惑う事になるが……。


「おやおや、アンチートマンじゃないですか。この前はよくもカクヨム神の1人を殺」


「やかましい」


 開口一番光弾を撃ちつける。


 アンチートガンナーに吸収した生徒達の魂をカクヨム神に渡し、少年と少女を含めた全員の身体を再構成して記憶を残さず地球に送り返すように

 そんな無茶は、と抵抗したのでブレードモードの刃先を額に当ててさらに脅す。この妄想の化身が。お前らのせいで異世界が滅茶苦茶になっているのだから拒否権は無い。


 ようやく観念したカクヨム神は、こちらの命令通りに彼等の肉体を再構成して地球に送り返した。その後、腹癒せになろう神は死なせた。


「汚れちまった悲しみに……」


 不意にそんなことを呟いてみた。何故か? 体中が血肉でべとべとだからだ。海水で汚れは落してみたが、それでもちゃんと洗浄したわけではないので中途半端だ。そう言えばお風呂にも入っていない……。


「あれ? どうしたのアンチくん?」


 ネアが不思議そうにこちらを見つめてくる。改めて彼女を見ると、視界に「汚れている」と丁寧にデータが表示された。鮮やかだった赤と青の体毛も若干淀んでいる。コルラ達にも視線を移すが、やはり汚れていると表示される。これはいかんな。2人とも女の子だから、身体は清潔にしておかないと。少年もちゃんと風呂に入れてやらなくてはいかん。


「僕達をそんなに見つめて……どうかしましたの?」


「アタシ達、汚れならさっき落したでしょ? 何か文句あんの?」


「ああ、温泉に行こう」


「「「はい?」」」


「温泉だ。温かい泉がある場所だ。海水で表面の汚れを落しただけで、実際には洗浄をしたわけではない」


「ああ、お風呂に行こうってことね。確かに海水じゃ塩がつくから洗ったわけじゃないわね」


「……少年はお風呂に習慣があるんだな?」


「そうよ。人間と亜人、獣人が交流してるんですもの」


 そういう意味で聞いたわけではない。何故おねえ口調で喋っているのかという含みを入れて聞いたつもりだ。だが、少年は何よ何か文句あるのとでも言いたげな表情を送るばかりでこちらの意図に気付いていない。敢えて触れないでおくか……。


「あの、アンチさん、ピーコくん?」


 ネアとコルラが怪訝な表情を浮かべてこちらを見つめる。


「「お風呂って何(ですの?)」」


 いや待て、女子なのにお風呂の習慣を知らないとは、それでいいのか。


「おい待て。風呂を知らないのか? 温かいお湯に浸かるやつだ。石鹸使って身体洗う。ネアは前に見てただろう?」


「アンタらまさかおギャルじゃないわよね!? ちょ~ありえないんだけど~!?」


 それに対する彼女体の反応。


「え? ああ、あれがお風呂だったんだ。でも人間はいいけど、温かい水に浸かるって、私は虫なんだよ? そんなことしたら死んじゃうよ」


「僕は視界が悪いのよ? 水に入ったら命取りですわ」


 正当な理由。それはそうだ。獣人や亜人も色々な種類がある。人間の習慣、文化と照らし合わせるのはお門違いもいいところ。基本的な事を忘れていた。


「じゃあ、あんた等どうやって清潔を保ってるのよ?」


「土や砂を身体に付けて掃うよ? 後は泥かな」


「僕もです。特殊な成分が含まれているので、肌にもいいんですのよ」


「ほおぅ。通りで2人とも肌がキレイなわけだな。土の香りがするのはそのためだったのか」


「何か妬けちゃうわね」


「2人の意見もごもっともだが、仮にも人の形態を半分持っている。そこまで危険視するものでもない。少し待っていろ。このカクヨム次元ネットワークを検索して探すとしよう……」


 その後、あの異世界食堂「カクヨム屋」と同じ中立的立ち位置の特異点となっている温泉地を発見。我々一行はその場所へと向かった。マシンクロッサーに跨り異世界を越えて辿り着くと、何処の温泉旅館だと言わんばかりの立派な施設が見えた。


 看板には「カクヨム温泉ランド」と書かれている。石器と樹木を使った、いい作りをしている。湯気が漂い、温泉の匂いがする。


 そして、いざお風呂に入る事になる。だがここで問題が。少年を連れて男湯に入ろうと思ったが、ネアとコルラは風呂初心者。そんな2人を放っておくわけにもいかず、かといって男湯に連れ込むわけにはいかん……。


 仕方が無いので混浴場へ向かった。

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