第34話「正義でなはい」

 その後も襲い掛かってきた敵を一掃していき、人質や捕らわれの人々を助けても被害が及ばない人数にまで減らした。先に助け出しても人質が奴らに攻撃されてたら意味が無い。


「良かった、みんな無事みたい……」


「まだ倒していない敵がいる。油断はするな」


「わ~てるよ!!」


 少年は手を突き出しして答える。


「こ~らピーコくん? わかりましたでしょう?」


「もう、ちゃんと言わないといけませんわよ?」


「だから子ども扱いすんなよ!!」


 ネアとコルラが彼の頭を撫でながら言葉遣いを注意する。少年は頭から煙でも吹き出しそうな動きで反抗する。もうすっかり可愛がられている。絵面は血だらけでグロテスクだが。


《全員無事に外へ逃れたぞ。これで安全だ。結界も貼っていない》


「ありがとうチェイサー」


《反抗して捕らえられていた生徒達も無事だ。随分酷い仕打ちを受けたようだが、捕らわれの人々共に励まし合っていたようだから。彼らの任せて大丈夫だろう》


「少しでも良心が残っている子達がいて安心した。彼らのような子達がより良い社会を作る」


《それは前世の経験上か?》


「……どうだろうな。残りの奴らを始末しに行こう。それで終わりだ」


 校舎は壊し過ぎたせいで半壊状態。屋根は突き抜け、床は底抜け、壁は撃ち抜かれて硝子は砕け散る。もはや外の景色が見えている。相変わらず曇り空だ。

 上のフロアへ登りつつ、自棄になって襲い掛かる者達ばかりになった。それは、そうだろうな。今まで無敵を誇っていた自分達の所にそれ以上の強さと、そもそも強さの概念が効かない奴が現れたとなれば。全員情けない掛け声を出しながら攻撃を仕掛けてくるが、攻撃にすらなっていない。


「ち、ちくしょお!! 何だってんだよテメエらは! ここは……俺達の天下じゃなかったのかよぉ!?」


「切っ先が震えているぞ。それではまともに攻撃もできない。そのような中途半端な覚悟でこの異世界の人々に酷い行いをして来たのか。良心を残したクラスメイトにまで傷付けなど……お前達は無邪気を装って子供の皮を被った悪魔だ」


 アンチートガンナーの銃口を額に当てる。


「さらばだ」


 光弾が貫通して脳漿が飛び散る。悲鳴を上げて怖気づく残りの男女は、床に座り込んで立てなくなっている。奴らに近付いて銃口を向ける。失禁して下着とスカートを濡らした女子生徒が目に涙を浮かべながら叫んだ。


「いやぁぁぁ!? お、お願い、お願いします! 助けてください! 何でもしますから殺さないでください!!」


「……それは無理な相談だ……」


 見逃す事は無く全員に光弾を命中させる。血管が浮き出た後に破裂して全身から血が噴き出す生徒達は、もがき苦しみのたうち回る。


「あがぁぁぁ!? いだいぃぃ、ぐるじいぃぃがっはッ……いやだ、いやぁ死にたくない、死にたくないぃぃ……」


 足を掴んで必死に助けを請う、顔面が崩壊しかかっているかつての美少女に向かい、静かに言葉を投げる。


「お前達、仲間の血肉を全身に浴びる度に、お前達がここで犯して来た残虐行為の記憶が流れ込んできた……。捕らえた者達を慰み者や労働力として使い、逆らえば拷問を繰り返して虐げる。そして反抗したクラスメイトを痛みつけた。許される行いとは言えない」


《Judgement(ジャッジメント)、Antirt(アンチート)BREAKAR(ブレイカー)!》


 銃口から放たれた巨大なエネルギー波が生徒達を瞬く間に包み込み、彼等は断末魔を上げて焼失していった。文字通り塵一つ残さずその空間ごと消失させた。 これまで抑え込んできた感情の渦が収まらずに呼吸が乱れ始めた。口から吐息を何度も漏らして思わず床に座り込んだ。


「だ、大丈夫ですかアンチさん!?」


 ネアが駆け寄り、体調を気遣ってくれる。コルラ達も同様にこちらを心配そうに眺める。


「違う……私は、その人物の記憶を読み取れる事は知ってるだろう」


「う、うん……チェイサーちゃんは知ってるの? アンチくん専用の乗り物だよね?」


《当然だ。私は彼と同じく大いなる存在インテリジェントデザイナーによって生み出された身だ》


「コルラと少年は初耳だな」


「ええ、そうですわね……」


「お、おう……」


「同時にな、感情も読み取る事が出来る。半端ない量の負の感情が流れ込んだ。虐げられた人々と少年の感情が。その感情に蝕まれそうになる。気を緩めれば、脳を乗っ取られそうになる。暴走の危険性もある……気を付けねばな……」


 少年が悲しげな表情を浮かべた。


「ちょっと、それって感情に押しつぶされかけたってことよね!? アンタ大丈夫なの!?」


「問題ない。初めての事で用心が足りなかった。意識すれば読み取らずに済む。これ以降はそんな心配はない……」


「そういうことじゃなくて、アンタは赤の他人だろうが? 俺にこんな変身する力を授けてくれたのはいけど。何か使命だとかなんかは知らないけどさ。嫌にならないのかよ?」


「私は……アンチートマンとして異世界チート転生者を狩る存在。課せられた使命を遂行し続けなければならない。自分の意志で止める事は出来ない。そう作り直されている。だが、自由に感情を抱くことは許されているから大丈夫だ。だから君にも力を貸す気持ちが芽生えた。ネア達の事も助けようと思えた」


「やっぱり縛られてるんじゃないか……辛くないの?」


 少年の頭に軽く手を乗せる。彼は抵抗する事無く受け入れた。


「辛いと思わない。元々戦闘職で、そう鍛えられていた。それがファンタジーに変わっただけだ。それに私は正義の為に動いてるわけではない。この行為は傍から見たら狂信的で殺人だ。お前達にもこんな活動に突き合わせてしまって、すまない」


 ネアが顔を近づけてきた。今までにない真剣な眼差し。


「それでも……アンチさんのおかげで救われた人達がいっぱいいます。私もその1人です」


 ネアが両腕を絡ませて抱き着いてきた。彼女の柔肌が硬い装甲に押し当てられている感覚が伝わる。励ましているつもりだろう。頭を撫でてあげた。コルラがクスクスと笑いながらこちらを見ている。アンチェイサーも同様だ。


「ようやく息が整ってきた。天職者達も全滅できた。もうここに用はない。魂も回収したから、保護されてる生徒達を連れて出るとしよう」


 ネア達が元気よく返事をする。俺も立ち上がって身体に異常がない事を確認する。


「なあ、ぼ、俺も連れて行ってくれよ!」


「何を言い出すんだ?」


「自分の力の無さにうんざりしてたの。アンタらと行けばいろんな世界が見れるんでしょう? 血みどろ大歓迎だよ。武者修業ってやつ。それにアイテム化したじゃない? だったら着いて来ても問題ないでしょ? それで技を発動させたりするんなら必要っしょ? ねえいいでしょ? 力になるわよ!?」


 服にしがみ付き、此処まで必死に食い下がるとは……これは、コア化してしまった手前、断るわけにもいかんな……。女性ばかりで構成されるよりはマシだろう。なによりこの少年の眼は輝いているからな。

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