第31話「状況把握」

「状況は思っていたより深刻だな……」


「はい。ひどい有様ですね……」


「首尾はどうですの、アンチ様、ネアちゃん」


 ネアと共にぐったりと項垂れる。コルラは視界が良好ではないので小屋でアンチェイサーと共に留守番させていた。


「この一帯の地域が異世界チート転移者の子供達により牛耳られている。未知の力に近い天職パワーを発揮する彼らに手も足も出ないそうだ。

 人質を取られており、それまで築いていた獣人や亜人との交流も絶たれ、物資や食料を献上せねばならない状況に立たされている」


「なんとひどい……」


「しかも、最近では国にまで侵攻を進めてるそうです」


「恐るべき子供達がいかに傍若無人に振る舞っているのかが伺えるな。そのせいでこの世界の勢力図が悉く覆され始めているらしい。もしも転職者達を脅威と定めた王国や帝国が攻撃を開始することを決めれば、ここの地帯の住人達は人質を殺されない為に壁として利用されてしまうそうだ。まったく……」


 少年を含めた種族混合住民達は決起し、自分達が持てる総力を結集して攻撃を仕掛けたのだが、結果は惨敗。多くの者が捕らえられ、特に女性は大半が連れていかれた。聞いているだけでも眩暈がするような有様だ。少年が嘆くのも無理はない。


「ちくしょう、スコルピオンの名が廃るぜ……自分が不甲斐無くて仕方がないってんだ!」


「大丈夫だよピーコくん。今は私達がいるからね?」


「そうですわ、自分だけでは太刀打ちできない強大な力もありますもの」


 自分の力の無さに憤る少年を、ネア達が相変わらず優しく包み込んだ。


「嘆かわしいぜ。最初は救出の方向で考えていたが、これはいくらなんでもやり過ぎだ。これが本当に人間の子供達がやることか……」


《強大な力を持ち、自分達がこの世界で最も脅威となる存在であると気付き増長したのであろう。集団で強大なパワーを持っているのだ。全員が自分達こそ強者だと有頂天になっている》


 アンチェイサーの冷静な推測と指摘は人間の負の本質を射抜いている。


 捕らわれたこの世界の女性達は、恐らく男子生徒などの慰み者として扱われている。男は殺されるか貴重な労働力として使われて虐げられているかもしれん。人質も同様の扱いと思われる。

 カクヨム神の空間でデータベースにアクセスして異世界チート転生者、異世界転移者等の資料を片っ端から検索して脳にダウンロードしたが、全員力に溺れて増長し、生き残るためだと主張して異世界で傍若無人を繰り返し、秩序と勢力図をひっくり返した。


 もちろん。力に溺れず正しき心でチート能力を使い熟す者もいる。彼らは執行対象外だ。だが、そう言った者達は「乙女ゲー界」と区分されている地域にばかり集中している。恋がしたいのだから男と違い平和と言えよう。


「これは明らかに侵略行為だな。奴等も通常の異世界チート転生者と同様のジャッジメントを行う。もはや恐るべき子供達の精神は異世界で増長している。一度殺さねば腐りきった性根は元には戻れない!」


「俺がもっとしっかりしていれば……」


 蠍ボーイは生意気そうな外見に反してナイーブなようだ。自分の力が足りなかったとさっきから嘆き続けている。ネア達が慰め続けるが、それでも彼の心はまだ晴れないようだ。どうにかしてやりたい。


「少年?」


「なんすか?」


「君に家族はいるか?」


「いねえよ。俺は1人さ。孤独な蠍野郎さ。だから村の人間達や、獣人族の力強くて頼もしい人たちが、俺にとって大切な家族だった。

 人間も獣も、亜人も関係ねえよ、この世界は皆が手を取り合って力強く生きている。そんな素晴らしい世界だったんだ……」


 蠍ボーイが悲しげに空を見上げる。彼の心理状況を反映してるかのように、空は灰色の雲で覆われていた。


「素敵な世界ですわね……」


「私達の世界とは大違いだ……」


「そうだな、良い世界だ。俺の世界でもそんなことは稀だった」


「でも、それをあいつらが全部ぶち壊していきやがったんだ! アイツらは僕の大事なもんや大切な家族を奪って意気やがったんだ! 俺には強さも力も無かったのよ!!」


 少年は両腕を振り上げて力強く空に向かい叫んだ。その絶叫は海岸全体に響き渡り木霊する。


「何故だ!?」


 こちらに訴えかけるように手を振るいながら教えてくれと言わんばかりの姿勢に、堪らず頭にそっと手を置いた。


「落ち着け蠍ボーイ。強さや力が全てを決めてしまうわけではないぜ? それは手段に過ぎない。時には交渉が物を言うんだ。力にものを言わせて事を進めるのは争いしか生まねえし文化的でもない。いずれは滅びちまうんだ」


「なによ? そういうもんなの?」


「ああ。だが、きっかけを与えることはできる」


 アンチートガンナーを腰のホルスターから取り出す。


「力を貸してくれないか? ピーコ少年」


 少年は不思議そうな表情で、俺の顔とアンチートガンナーを見つめて首を傾げる。数秒が経過すると、少年は徐に尋ねる。


「助けてくれんだろ? なら、力を貸すよ……けど、どうやって?」


「こうするんだ」


 銃口を少年に向ける。訝しげな表情を作り銃口を見つめる。


「えなにそれ?」


「はいチクっとしますよ」


TranceトランスFormationフォーメーション!》


「ちょっきんなぁぁ!?」


 少年の姿が粒子に包まれ、シルエットが縮まり手乗りサイズに縮小してアンチバレットコア化が完了した。

 外観は鋭利な鋏と尻尾を模した攻撃的なデザイン。色合いはグレー&ブラックでメタル掛かっており、眼と棘の部分がレッドカラー。


「これは中々カッコイイじゃないか。イカしたデザインだぜ少年」


「いったいわねいきなり何すんのよおぉ!? っていうかどうなってんのさコレ!? 俺アイテムみたいになってんですけどお!? ふんづけてやるんだからあぁええゴラァ!!!!!」


《「「かわいい」」》


 小さな体が小刻みに揺れて、女性陣から黄色い声が届いた。

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