第23話「お色気と糸の毒牙」

「やあ門番さん? ちょっとお尋ねしたいことがあるのですが」


「えっ!?」


 門番に向かい色目かしい口調と仕草で近寄るコルラ。彼女のお色気ムンムンな姿に、門番は一瞬呆気にとられ、直ぐに赤面してしまった。

 しかし、コルラの動きは何処かミュージカル舞台のように芝居染みており、これから何をするのか思わず魅入ってしまう力がある。まるでタッカーラヅカのようだ。


「いやその……失礼ですがお嬢さん、そのような破廉恥な格好では危険ですぞ……!?」


 しかも真面目で優しい性格か。これはチョロイな。


「おや、僕の心配をしてくださるなんて、あ、なんと! あ、なんとお優しいお方だろう!!」


 大袈裟に身体を回転させながら門番にさり気なく近付き、爆乳を押し付け、艶やかな太ももを絡めつつ腕を門番の首に回すコルラ。上目遣いで顔を覗き込み、そっと息を吹きかける。まるで蛇の様に機敏な動作。妖艶さの中にカッコよさとスタイリッシュさを合わせ持っている。一々声を張り上げて見栄を切るのは何故だろうか。様にはなっているが、あの兵士は完全にコルラが作りだす舞台の登場人物として取り込まれているようだ。


「コルラちゃんって何であんなに馴れてるんですかね?」


「さあ? 誘惑した経験があるのではないか。もしくは舞台女優だったのかも」


「ぶたいじょゆう?」


「いやなんでもない」


 ネアが、コルラのお色気動作がやけにクオリティが高い事に疑問の声を上げるが、憶測で図るしかなかった。自分的には舞台にでも入っていたのではないかと思ってしまうが。


「い、いや自分は危ないからと忠告しただけで……!!」


 物凄く狼狽えている門番。顔は既に真っ赤か。


「おやおや、ご謙遜なさらないでください、素敵な肉体ですね。思わず食べちゃいたいくらい……僕と貴方がここで会ったのも何かの縁! どうですか? 一緒にティータイムと洒落こみませんか?」


「何とも魅力的なお誘い……しかし、自分にはこの入口を警護する使命がござりまするお嬢さん……!」


「そんなつれないこと言わず、僕に身を任せちゃいなよぉ!」


「いやそれは出来ない! 自分には、俺にはここを守る役目が……」


 追い打ちをかけるように艶っぽい声を発しながら、先が二股に分かれた舌で門番の頬を舐める。その舐め方も真にエロイ。頬を赤らめてフェロモンムンムンだ。若干興奮しているようだが本来の目的を忘れないでほしい。

 とはいってもそんなにいやらしくは無い。男方の女優とでも表現すればいいだろうか。男装した令嬢が男を口説くようなもの。そのギャップに男はクラッとくるらしいが、あの話しは本当なのかもしれない。


「それでは……おやすみなさいませ」


 コルラの舌で舐める攻撃が効いたのか、門番は身体の違和感に気付く。そしてコルラは瞳を金色に輝かせて門番の瞳を見つめる蛇睨みだ。これにより彼の身体は完全に痺れ状態。コルラは成功の合図をこちらに送る。


「ネア、糸で捕縛しておけ」


「はい、えい!」


 既に人間態トランスフォームしたネアがお尻から蜘蛛の糸を放出して、気絶した門番を捕縛。これでこの門番はモンスターに襲われたという大義名分が出来る。いきなりネアの蜘蛛の糸で捕縛してもよかったが、コルラのタッカーラヅカめいたお色気力がどれだけのものか実験してみたかったので後に回した。それにただで通してもらえるとは思わない。ここはファンタジー世界、現代とは違う。


「やっぱり人間の男は楽勝でしたね。コルラさんのお色気でいちころだもん」


「ふふふ、お褒めいただき光栄です」


「さてさて入るとするか……」


 短い橋を渡り円形状の壁に囲まれた街中に入る。この姿に転生してから初めて城下町、人々が大勢いる場所に来た。

 周りを見渡すが、多種多様な人々で賑わっている。建物も石と木を工夫して建造した作りで見た目よりも頑丈そうな印象を受ける。

 やはり、人間の姿が目立つ。念のためにネアとコルラに私の服を着せておいて正解だ。コルラはちょいグロのセクシーなだけだからどうにかなるが、ネアは可愛いがグロイ見た目なので黒コートで隠さないと悪目立ちする。アンチバレットコア態にすれば隠す必要はないが、こうやって街を普通に歩きたいだろうと思っての配慮だ。


「えへへ~アンチさんの匂い~」


「おやおや。実に魅力的な香りですわ」


 2人が見惚れるように私の上着とコートを鼻に当てて匂いを嗅いで恍惚とした表情を浮かべているが、微笑ましいというよりはおぞましいというか悪寒が走る。


「いろいろありますね~ほらほら、あれってお店ってやつですよね?」


「どういうお店かしら? 僕こういう場所は初めてなのでよくわかりませんわ」


「私も人間の街になんか行きませんでしたから、初めて見ました」


「この身体になって初めて人が多い場所に来た。しかし……勇者を召喚したわりには、そこまで危機感があるとも思えない……」


「確かに、皆のほほんとしてますね?」


「本当に呑気な人達ですわ」


 勇者が召喚されたのならもう安心だという風潮もあるのかもしれないが、それにしては普通、空気が平凡過ぎるのだ。少しは戦いにより生じる不安感や暗い雰囲気が漂っていてもおかしくは無いが、それが微塵も感じられない。とても勇者を召喚する程の脅威に立たされているとは思えない。


「これは、やはり何か裏があるな……」


 夜になるまで待ち、城に潜入する作戦だ。それまでは、街の人々に情報を聞く事にしよう。こういう場合は酒場がメッカだとファンタジーゲームでも定番。ネアの可愛さとコルラの色気を有効活用させてもらおう。もちろん手を出して来たら容赦しない。

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