第9話「尾行開始」
ネアと共に武装したゴブリンの集団を尾行して数分が経過。気付かれないように抜き足差し足忍び足状態で大木に隠れつつの隠密行動。
奴らはこの山道を疲れること無く平然と歩き続けている。地面は平らであるものの、急な登り道や草木が邪魔する箇所がある。それを繰り返していれば普通の人間なら数十分で疲れが見え始める。しかし、ゴブリンは下級ではあるが膂力は人間よりは高い。こんな道など屁でもないのだろう。
ネアの話によれば、体格が普通のゴブリンよりも良く、背丈も高い事から普通のゴブリンから進化したホブゴブリンらしい。知能が向上するらしく、顔立ちも整い人間と同じような会話ができるとの事。顔立ちが整うというのは種族間の価値観があるので醜いのか美しいのかはそれぞれだが、少なくとも自分はあのゴブリンたちの顔立ちを、イカしたクリーチャー系と捉えた。
しばらく尾行を続けているうちに、ゴブリン達は岩肌に辿り着き、何やら辺りを警戒し始めた。こちらの存在に気付かれたと肝を冷やすが、どうやらただ警戒しているだけで見つかったわけではない。ゴブリンのリーダー格らしき者が岩に触れて何か言葉を唱えた。
すると、触れた部分が発光して紋様の様な物がうっすらと浮かび上がる。静かな音を立てて岩石でできた入口が出現し、ゴブリン達は荷物を抱えて中へと入って行く。あれは、結界魔法か何かなのだろうか? 洞窟を住処にしているのか。全員が中に入った瞬間、入り口は最初から無かったかのように消え去り、元のゴツゴツとした岩肌に戻る。
「中に入っちゃいましたね? あれじゃ尾行できません」
「そのようだな。何か面白い物でも見られると思ったのだが、お遊びはここまでだ」
「何を楽しみにしてたんですか?」
「俺にとってはこんなファンタジー世界は面白いことだらけに見えているのさ。未知との遭遇を期待してしまう」
「そうなんですか」
「いや、待て!?」
微かにだが、先程ゴブリン達が入って行った洞窟の中から、明らかにこの世界に存在しない得体の知れないパワーを感じ取れた。視界が僅かに赤く点滅したようになる。この異世界の空気の中に紛れ込んだ一粒の異質な成分とでも言おう。
『微かにチート反応を検出。微かにチート反応を検出。直ちに調査を開始してください』
「ナビゲートまで言っているのだから間違いない、この感覚は転生チート能力者だ」
「え? いるんですか?」
「どうやら尾行はお遊びでは終わらなかったらしい。視界が微かに赤く点滅してあの洞窟からチート能力者の波動を感じた」
「まさかゴブリン達の中にいるんですか!?」
「いや、正確には洞窟内にいる誰かだ。ゴブリンが使っているとは限らない。だが、何故急に現れたんだ……」
さっきまで感じなかったが、急に何処からともなく現れたように力の波動が感じられたのだ。今も岩肌に隠れた洞窟付近から微弱な電流の様に、波動が流れて神経と本能にビリビリと語り掛けている。これはいったい何の力を使っているのだろうか? 判断材料が足りないのが歯がゆい。
「もしかして、探査機能でも使っているんではないでしょうか?」
ネアが流暢な口調で意見を提案してくれた。探査機能?
「それは、どういう能力だ?」
未だ中途半端な異世界の知識しか持たない故、自分は要領を得ない。ここは彼女に頼るしかない。
「主に夜行動物かモンスターが所持する専属スキルなんです。人間では魔法で使えるようですが、我々亜人や獣人、モンスターの方が性能は上です。近くに敵か獲物がいないか探ることが出来る能力なんです」
「なるほど。弱肉強食の自然界で生きていくためには必須のスキル。夜の世界に生きる動物なら、得物を狩るために必然的に備わるスキルと言うことか」
しかし、それがチートとどう関係するのだろうか。彼女の推理を聞き続ける。
「あくまで予測の範囲ですが、アンチさんが波動を感じたということは、間違いなくそれはチート能力でしょう。
そして、その波動はあのゴブリン達が洞窟内に入ってから急に感じ始めた。ということはですよ? もしかしたら中にいる親玉的な存在が、外に敵がいないか念のため探査機能を使っているのではないかと思ったんです……その……私達アラクネア族もよく見張りで使ってましたから……」
推理の最期、声のトーンが微かに落ちた。きっと故郷のことを思い出してしまったのだろう。そっと彼女を指で撫でて、それ以上思い出してしまうようなことは言わなくていいように示す。
「その探査機能がチート能力と関係があるかもしれないことになるな」
「あくまで予想ですよアンチさん?」
「わかってる。だが、気付いた以上見過ごすわけにはいかん。例え何者であろうと、俺はチート能力者、チート能力転生者は狩らねばない。アンチートマンとしてな」
脳の奥、身体の底から本能が騒めき叫ぶ。血が沸騰すかのような感覚すら覚える。アンチートマンとしての本能が奴らを狩れと警告している。高ぶる気持ちを抑え、どうやって内部を調査するか考える。前の異世界でネアのパワーを使って結界を壊した。あの入口が出現する方法が結界魔法なのかは判明していないが、動かねば始まらないので、まずは同じ方法を試してみるとしよう。
「出番ですね?」
ネアの期待に満ちた声が耳に入り、静じかに微笑んで答える。
「頼む」
「任せて下さい!」
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