第3話 電邪の歌鬼デスカーベル
本部は制圧され、大勢の人質を取られた状態だったが、咄嗟にスコピーが憑依して敵を翻弄する事で辛くも逃げ延びる事が出来た。
共に逃れたのは教率いる少数のサポート部隊メンバー。
佐伯、水島、黒田も逃げる事が出来たが、全員満身創痍状態。焦燥しかけている。強化服を着用していたとはいえ流石にダメージは防ぎきれなかった。
街中に仮の拠点を作りこれからどうするか対策を練ろうとしたが、ここで異変に気付く。
街を行き交う人々がしきりに大型モニターに集っている。
そして、彼女の声……小鳥ことティンカーベルの声がモニターから流れた。
だが、映し出された彼女の変わり果てた姿。
おそらくティンカーベルが小鳥に憑依している状態なのだろう。瞳と一部の髪色が黄緑色に変色しているが、これまでの彼女からは想像もできない、暗黒色に彩られた衣装。
パンクロック衣装に身を包んでいたのだ。顔はゴスメイク。その表情は悪意に満ちた攻撃的な笑みを浮かべている。そこには最早本来の大空小鳥、ティンカーベルの姿はなかった。
「よく聞け豚共! ワタシが歌姫ティンカーベル、いやちげえな、今日からはデスカーベル様だ! お前らが来るのを待っていた……ひゃあああああああああああああああああはっはあああああああああああああああああああああああ!!」
モニターから耳を劈く程の小鳥の絶叫が迸り、思わず耳を塞ぐ。言葉使いも汚い。
「これからお前ら愚民共を天にも昇る心地良さへと誘ってやるから……アタシの歌を聴いていっちまいなああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
二度目の絶叫の後、激しいサウンド、デスサウンドが流れ、彼女はあろうことかデスボイスで歌い始めた。
その歌声を聞いた瞬間、人々は耳を塞ぎ、頭を振り回しながら悶え苦しみ出した。
正直、あまりに激しいロックサウンドと歌は脳にダメージを与える。人々の心と感情に訴えかける歌を唄っていたティンカーベルがデスメタルでその歌声を披露すれば、それだけ聴く人々の心身にtダイナ悪影響を与えてしまう。
「な……なんてひどい歌なの……頭が割れる……知能指数が下がりそう……!」
佐伯は耐えきれずに、頭と耳を抑えながら膝を付き、思わず叫ぶ。
「大空さん、ティンク、何で急に? まさかあの時ウイルスを注入されて何かされたのか!?」
『恐らくそうだろう、人好ひとよしとジャスティンがウイルスを注入した後に何か洗脳でも施したとしたか考えられない。それにしても……凄い歌だ。人々の精神状態が乱れている』
「こういうのも悪くはないが、流石に激し過ぎるかな……」
純情癒し系の彼女からはかけ離れたデスメタルの歌姫と化したティンカーベルこと小鳥。
その激しく攻撃的な歌声と妖艶で刺々した風貌、荒々しい言葉使いに、掴は頭の片隅でこういう彼女も悪くないとは思ったものの、心身に多大なダメージを与える影響力はやはり凄まじいが危険と感じた。
『いかん! これ以上彼女の歌を聴くのは危険だ! 掴、音声を遮断するプログラムを打つんだ!』
「なに!? わ、わかった……」
スウェンに促されるまま、掴はインタフェイサーを起動させてデジタルキーボードを展開。高速でキーを叩きながらプログラムを組んでいくと、宙に表示された文字がスウェンに吸収されて、掴達を包み込む大きなドーム状のファイアーウォールが出現。その瞬間、外界との音声が遮断された。
そして、スウェンの危惧した事が現実のものとなった。
デスカーベルのデスメタルを聞いていた人々が発狂し始めたのだ。そして、痙攣を起こした後にぎこちない動きになり、呻き声を上げ乍らデスカーベルの名を繰り返し呼ぶ。虚ろな瞳で生気が無く、隈まで出来ていた。大勢の人間がデスカーベルの名を叫びながら、まるでゾンビのような動きを繰り返す。
「ま、まさかこれって……洗脳か?」
『恐ろしい……電子ドラッグのようなものだろう。この場合はソングドラッグか。彼女の歌が人々の脳に刺激を与え、洗脳状態にしているのだ。あのウイルスまで検出されている。なんてことだ!?』
「人好ひとよし、ジャスティン……一体彼女達を使って何がしたいんだよ……!?」
電子の歌姫は、人々を洗脳し操る電邪の歌姫デスカーベルと変貌してしまったのだ。
「掴ぅぅぅぅ!? アタシの歌声聞こえてんだろうがぁぁぁぁ!? 早く遭いに来てくれよ! 遭いに来やがれえええええええええええええええ!! 待ってる」
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