第3話 遊戯/開始/異変
珍しく、望と叶の予定がフリーだった。
そしてどうやら、今回開催されるイベント「決戦!
「ねえツカっちゃん久しぶりにどうよ?」
「イベント参加しちゃう?」
意気揚々と迫る望と叶。せっかくのお誘いではあったが、生憎電子の歌姫様という先客がいる。ばつの悪い表情で口を開く。
「ああ、悪い。先に参加を約束した人がいるんだ」
そう言うと、望と叶は少し意外そうに顔を見合わせる。
「そうなんだ。えっと、まこっちゃん達?」
「もしかして北出先輩かな?」
「ああ、違う」
「「え?」」
当然、誠達か北出と思っていたのだが、予想外の返答に訝しげな表情を浮かべる。どう答えるべきか迷う。素直に言った方が吉だろうか。
「あ、そうか、社員の人でしょ?」
「イベント管理を手伝うとかそんな感じかな?」
仕事関連だと思われたので、仕方なくある程度オブラートに包んで話す事にした。
「いやその……つい最近知り合った女の子……」
表情が強張った。双方目を見開いて硬直し、こちらを凝視したまま何も語らない。掴の口から出た言葉の意味が理解できずか、それとも真実なのか見極めるために思考しているのか。
余計に混乱させたかもしれないと自分の発言を後悔する。しかし、いずれにせよコトリと参加しているところは見られるわけだから、話さなければない。
「ああだから悪いな、せっかくのお誘いを」
「「寝言は寝て言えよ?」」
「素に戻って言わないでください!」
急に声のトーンを低くして真顔できつい言葉を送られた。やはりいきなり言っても信じてはもらえないことは、これまでの自分の人間関係形成能力を省みれば重々承知している。
「いくら彼女がいないからって二次元の嫁にハマるのは止せよ」
「現実を見ようよ、起きないから奇跡」
「憐れみの表情と冷めた目線で言うのも止めような!? あといくらなんでも言い方酷くね~ですかお2人さん? 大丈夫だよ本当だから。親父から紹介された知り合いの女の子なんだ」
「「おじさんの知り合い?」」
嘘は言っていない。小鳥のプライベート情報を漏らすわけにはいかないのでぼかして発言しなくてはいけない。育継の知り合いの女の子という事で、どちらも納得した様子。
「なんだおじさんの知り合いの子か。他人に興味ないツカっちゃんが女の子と約束だなんておかしいと思ったんだよ」
「てっきりこじらせて妄想に走り出したのかと思っちゃった」
「マジでひどい言い方だね~お前ら!!」
「「どの口が言ってんの?」」
「……すんません」
半分怒りの込められた笑顔に思わず謝る。
「どうせあれでしょ? 「掴もいい加減他の人に関心を持ちなさい」とか、そんな事言われたんでしょツカっちゃん」
「それでおじさんから仕事の一環としてその子を紹介されて約束したって流れかな」
「あ~うん、そうそう大体そんな感じ……」
2人とも流石幼馴染み。大体というかほぼ合っている。鋭い推理力と感心する。
「じゃあ2人で参加しようか、かなちゃん」
「うん、望くん」
「ごめんな、せっかく久しぶりだってのに……」
「いいよいいよ、せっかく掴ちゃんが他の子と交流を持つんだもん。むしろ嬉しいよ」
「そうだよツカっちゃん。あ、それからちゃんとエスコートしないと駄目だよ? なにか問題が起きたら俺らを頼っていいから」
「ああ、さんきゅ」
優しい笑顔で応答えてくれる。こうやって自分の事を思ってくれる人達がいる事を、ありがたく感じる。他の人と交流を持ったことを、自分の事のように喜んでくれるのだから。
その知り合いの女の子、つまり小鳥がどのような人物なのか必要以上に聞かないのもありがたい。きっと内心では察してくれているのだろう、と。
小鳥に望と叶を紹介したいとも考えたが、あくまで彼女が2人と知り合いたいと進言があれば紹介するべきだ。もしもその時が来れば掴は喜んで仲介役になるつもりだ。
「……ん!」
「……あいた……?」
望が頭を押さえ、叶も頭を押さえながら辺りを見渡しだす。どうしたのだろうか。
「どうしたんだ2人とも?」
「ん? いや、なんか今頭に電流でも走ったかのような痛みが一瞬だけ……なんだろうな?」
「ねえ、掴ちゃんと望くんなんか変な声出した?」
「え?」
「いや出してないけど?」
「私も、今一瞬頭に電気が走ったように痛かったんだけど、その後変な声がしたんだよ」
「あれかなちゃんも? 俺も聞こえたんだ」
少し驚きを隠せなかった。前に小鳥とログインしていた時に起こった「電流のような痛み」と「変な声」が、何の偶然か望と叶にも発生したのだ。
「おいおいお前らもか? 俺も、その知り合いの女の子にも起こったんだよ!」
「ツカっちゃんと知り合いの子も? なんか奇妙な偶然だねこりゃ」
「もしかして疲れてるのかな?」
「そうなんじゃねえの? 俺もその子も、少し休んだら何も問題無かったし。お前も根詰め過ぎなんだよきっと」
「掴ちゃんにだけは言われたくないかも」
「いつも根詰めるくせに、ねえ?」
「ああはい、確かに人の事言えませんでした……」
――――……――――……――――……――――……――――……――――……
「では、イベントの確認を」
「はい」
ナミヲとコトリは、大勢のアバターが集結したタウン内で、イベント情報を確認していた。必要最低限の装備は整え、コトリのレベルも上げた。
そしてなにより、今回のため、特別に限定でナミヲのプロテクトを解除している。敵とエンカウントして倒した時、自由にレベル上限やステータス上昇が解禁となる。これなら進んでいくうちに多少は楽になるだろう。イベントが終われば再びプロテクトを掛ければよいのだから。
「それにしても、大勢の方が参加してらっしゃるのですね」
「毎回の恒例です」
周りのアバター達はどれも上級・中級プレーヤー、いかにも強そうな装備に身を固めた者達で溢れかえっている。個人で参加する者もいれば、コンビ・トリオ・はたまたグループ単位で参加する者達もいる。今回も大いに盛り上がりそうだ。
イベントの様子はファンギャラに参加している全ユーザーが自由に閲覧できる仕様。入院患者や寝たきりの人達も一種の娯楽番組のような感じで、自ら参加しするなどして、毎回楽しみにしているらしい。その点を考えると、少しだけ観客を楽しませなくてはという、よくわからない使命感と責任感が沸くのは自信過剰と言えるのだろうか?
「ゲームの中なら自由に動けるから、病気を患ったり、寝たきりの方々も参加していると聞いています。いろんな人たちが一緒に参加して遊べる場所なのね……」
「父も、それがファンギャラの売りであり、存在意義だと」
「素敵。いろんな人達と分け隔てなく繋がれるなんて」
「そう言ってもらえると、父も御守さんも喜びます」
そう、今この場にいるアバターの中には、多種多様な大勢の人々がいる。普通の人、病気持ちの人、外国の人やハーフ、身体に障害を持つ人などがアバターという自らの分身の器に入り込み、普段とは異なる自分となって他の人たちと交流をする。それが治療やリハビリの助けになる。そうやって救われた人達の報告を何度も聞いてきた。
そして、自分の隣にいる電子の歌姫も、歌と踊りをファンギャラで通じて世界に貢献している者の一人だ。自分は、どれだけこの世界と現実世界に貢献しているのだろうかと、ふと疑問に思う。
「なあなあ、今回はスコーピオン参加するのかな?」
「どうなんだろうな、あの人姿消してから大分経つじゃん?」
「てか、デュークも紅蓮も参加するのかね?」
「いや、あの人達がイベント参加しているとこなんて見たことないぞ」
「え、そうなの?」
「デュークは闘技場永久チャンピオンのまま不在。紅蓮だってギャラクシアを拠点にしてたからファンタジアには現れなかったらしいぜ」
「そういや3人とも伝説級なのに一堂に会した事ないんだよな」
参加者が話す会話の内容に思わず現実で飲んでいたお茶を吹き出した。少し気管に入り掛けて咳き込む。一堂に会せないのも無理はない。なにせ3人とも同一人物であり、今はナミヲへと姿を変えて参加しているのだから。同じく会話の内容が聞こえていたコトリはある程度察したようにナミヲを気遣う。
「だ、大丈夫!? ナミヲさん?」
「大丈夫。自分への報いという事で」
「は、はあ。あまりお気になさらずにいきましょう?」
「そ、そうですね。今は一般プレーヤーですから」
改めて周りを見渡す。おそらく
『
何処からともなく、タウン内に響き渡るようにイベント開始のアナウンスが
流れる。街が歓声でざわつき猛り、熱気が伝わるような錯覚に陥る。
タウン中央の噴水場にイベント用の巨大ゲートが出現。ここからイベントエリアへと転送されるのだ。アバター達が意気揚々とゲートに近付き、光りに包まれ通行していく。
「さあ、俺達も行こうか」
「はい」
軽くガッツポーズと取り、ナミヲはコトリと共にゲートへと向かう。
「……ん?」
「どうしました、ナミヲさん?」
「いや、気のせいか?」
一瞬、ゲートにノイズの様なゆがみ、揺らぎが見えた。砂荒らしめいた音も聞こえた。だが、数秒で再びノイズが走りゲートの一部が微かに歪む。
「まさかバグか? ほら、ゲートにノイズが走って歪んでいる」
「あら、本当……ああいう仕様ではなないでしょうか?」
「仕様? ああそう言われれば、そうかもしれんな……」
そういう仕様ならば問題は無い。大勢のアバターが一度に転送する故、たまに処理落ちが起こる事もある。基本性能がアップされれば良いので遠くに気に留める事は無いだろうと納得。そのまま2人はゲートをくぐり、イベントエリアへと転送された。
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