あなたのジュエリー

第185話 ★1★

 黒い前髪をピンと引っ張る。目元を隠すために伸ばしていたものだが、さすがに視界を遮りすぎている。梳くなどして調節したほうがよさそうだ――などと、事務椅子に腰をかけたまま抜折羅ばさらが考えていると、目の前のパソコン画面に影ができた。


「抜折羅くん、髪を切るなら僕に任せてよ」


 声をかけられて見上げると、腰まで伸びる長い銀髪と赤い瞳の美少年――遊輝ゆうきが笑顔で見下ろしていた。


 仕事を一緒に組むことが多いのでほとんど社員といっていいはずなのだが、彼は今でもプロジェクトごとに契約するパートナーでいたいと主張する。縛られない生き方を望む彼らしいが、この事務所をしょっちゅう出入りされる側としては社員になってもらったほうがセキュリティ的な不安がなくてありがたいのだが――といつも抜折羅は思う。


 今日だって彼はふらりと事務所にやってきた。鍵をしっかりかけていても入ってくるのだから、締め出すのはすでに諦めた。


「このくらい自分でやれる」

「えー、でも、後ろも伸びてるじゃん。節約するためにも僕がやったほうがいいんじゃないかなー」


 伸びっぱなしの襟足に触れながら、遊輝が提案する。

 確かに、日ごろから節約しているわけで、美容院で散髪してもらうお金も惜しいくらいだ。


「僕の器用さは評価してくれているんでしょ?」


 そう言われてしまうと、しぶしぶ頷く。


「気にくわない場合、散髪代は白浪先輩が負担ということなら」

「ふふ、それでいいよ」


 どういう風の吹き回しかわからないが、抜折羅は遊輝に乗せられることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る