第50話 ★15★ 9月5日木曜日、放課後

 抜折羅ばさらが地学室に駆け付けたとき、こう蒼衣あおいの腕の中で泣いていた。辺りには血のあとが見られる。

「やぁ、抜折羅くん。キレるってこういうことを言うんだろうね」

 苦笑を浮かべる遊輝ゆうきには返り血がついている。せっかくの白いコスチュームが台無しだ。

 相手の男子生徒たちは酷い出血はなかったようだが、顔を激しく殴られたらしく腫れており、どこの誰なのかわかりにくい。飛び散っているのは主に鼻血なのだと理解した。三人とも完全に伸びている。

「やり過ぎだ。しかも能力を使っただろ? 使用制限があるくせに、無茶して……」

「君の方が条件きついでしょ? それに、星章せいしょう先輩や紅ちゃんを戦わせるわけにもいかない――君が僕を選んだのはそういうことだとんでいたんだけど、理解してもらえなくて残念だね」

「格好つけすぎです、白浪しらなみ先輩」

「後輩の前、好きな女の子の前くらい、ええかっこしいことしたいもんじゃないかなぁ」

 おどけて、遊輝は肩を竦める。

「ま、派手にやらかしたから、警察沙汰だね。ごめんね、星章先輩。罪は僕に被せていいから、君は関係ない顔を――」

「何も言うな。あとは私の仕事だ」

「そうでしたそうでした。お任せしますよ、閣下」

 宝杖学院に救急車のサイレンが聞こえ出すのは、それから数分後のことだった。



(第4章 翠玉の女王は微笑まない 完)








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