第47話 *12* 9月5日木曜日、放課後

 地学室は四階の突き当たり、体育館側とは反対の芸術棟側の端に位置する。こうは地学室の扉を開けた。

山香やまが先生……?」

 人の気配がするが、見当たらない。紅は中に踏み込む。

火群ほむらです。用事って何ですか?」

 教室に響くように言ってやると、机の陰に隠れていた人物が姿を現した。男子生徒が二人。知らない生徒だ。

 紅は戸惑う。反射的に後退りすると、人にぶつかった。

「先生?」

 肩に手を置いてきた人物を期待して見上げると、見知らぬ男子生徒だった。

 ――どういうこと?

「残念。山香先生なら、今職員会議中だぜ?」

 その台詞に察する。はめられたのだと。

 逃げようとする紅を背後の生徒が腕を掴んで阻止。中にいた生徒が近付いてきて、扉を閉める。

「やっぱ実物は良いもんだな。巨乳って聞いていたが、本物みたいだな」

 両腕を背中側で拘束されたところで、別の男子が紅の胸をつつく。

「やっ……」

「良いよなぁ、白浪しらなみ先輩はさ。このふかふかの胸とか形のいいケツとか、好きなだけ触ってんだろ?」

 身体をなぞる指が胸から腹部へと下りていく。逃れたくて身を捩るが、意味をなさない。

星章せいしょう先輩も紳士ぶっておきながら、この女とヤってるって話じゃん」

「二人はそんな男じゃないわよ! ってか、放してよっ!」

「あいつらがどんな男なのか、君の身体を調べりゃわかるだろ?」

 正面の男子生徒が舌なめずりをしたのを見て、紅はぞっとした。背筋が寒い。

「だ、誰かっ助けてっ!」

「あまり騒ぐなよな」

 男子生徒の手に握られていたのはハンカチ。彼は迷うことなく紅の口の中に、丸めたハンカチを押し込んだ。もごもごして声が出せない。それどころか、口の中の水分も取られて苦しい。

「んんっ……」

 足をバタバタさせて抵抗してみると、蹴り飛ばそうとする足を避けて別の生徒が押さえた。動けないうちに学校指定のスカーフが外され、後ろで拘束している生徒に渡される。どうやらスカーフで腕を縛る気らしい。

「んぐっ……」

 縛るためには一瞬解放する必要があるだろう。その瞬間を狙って逃げようと画策する。

 だが体勢が変化、紅の身体は胸側を机に押し付けられ、逃れられぬままに腕を後ろで縛られてしまう。

 まもなく床に倒された。仰向けになった紅は見下ろしてくる男子生徒たちをにらむ。拘束された腕は動かない。

「そんな嫌そうな顔をするなって」

 自由な足を使って後方に移動するも、すぐに壁が迫ってきた。男子生徒の手が襟を捕らえる。紅は恐怖のあまり両目をきつく閉じた。

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