第136話 信じがたい現実


「なあ、母ちゃん。ウソだろ? ウソだと言ってくれよ」

 息子は泣きそうな顔で、がっくりとその場にひざをついた。窓の外から差し込む光が、その横顔を赤く照らしている。


 私は黙ったまま、ゆっくりと首を横にふった。

 これが現実。失われたものは、もう2度と戻らない。それを受け入れなくてはいけないのだ。


 テレビでは、彼が毎週楽しみにしているアニメがはじまっている。しかし、今の彼にはそれを楽しむ余裕もないようだった。


 私にも同じ経験がある。だから、その気持ちはよくわかった。

 けれど、こればかりはどうしようもない。だから、なぐさめの言葉もかけず、彼が現実を受け入れるのを待った。

 台所で食事の支度をはじめながら。


 窓の外は、まぶしいほどの夕焼け空だ。

 日曜日の午後5時。

 それが今日、彼が目覚めた時間であった。


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