第117話 勇者の物語


 ああ、そうさ。俺がその勇者と呼ばれている男だ。城の地下にある光の神殿で聖剣を目覚めさせたのは、この俺だよ。


 もともと俺は城を守る兵士だった。ところが聖剣を目覚めさせたことで、次の日から勇者と呼ばれるようになった。立派な鎧と盾を装備して、王様の隣に立ったときは震えたよ。魔物と戦ったこともない俺がいったいなにをしてるんだろうって。


 でも勇者があらわれたっていう知らせが世界中に広まって、みんなは大喜びだったらしいな。これで世界は救われる、勇者がいれば魔王なんて怖くないって。

 負けっぱなしだったみんなが、それで勇気をふるいおこした。世界中で魔王軍への反撃が開始された。そうして人類は見事、魔王軍を撤退に追い込んだってわけだ。


 誰もが俺のおかげだというが、はたしてそいつはどうなんだろうな。俺は剣を目覚めさせただけで、魔物とは一度も戦わなかったんだからさ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る