第115話 女優魂


「や、やっぱり、無理です。私には女優なんてできません。ご、ごめんなさい!」

 スポットライトが照らし出す舞台の上で、彼女は身を縮めて震えている。


 極度の緊張からだろう。彼女の顔はすっかり青ざめて、表情も消えている。声は消え入るように弱々しく、セリフも棒読み。その演技は、思わず目を覆いたくなるほどひどいものだった。


「やはり、彼女に頼んで正解だったな」

 予定通りに進むリハーサルを見ながら、私はほっと胸をなでおろした。

 舞台監督として、この劇の主役を誰に頼むか、ずいぶんと悩んだ。そして偶然立ち寄った劇場で、ついに彼女を見つけたのだ。


 きっと彼女は素晴らしい女優になるだろう。

 女優の経験なんてない素人の女性が、なんの準備もなく、いきなり大きな舞台に立たされる。、彼女はピタリとあわせてきたのだから。


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