寂しいだけです



寂しいだけです

これっぽっちも寂しいだけなんです

寂しさを感じない人間だなんて

そうそうお目にかかれるものではないし

冬に身をきる虫たちが

どこかへ雲隠れしてしまうように

しらばっくれて

ホットレモンティーなど飲んでみている

そんな夜です


夜を乱して

誰かに迷惑をかけるほどもない

これっぽっちも寂しい夜に

それでいて悪くない

なのにきっと

ふとした拍子に

思わぬきらめきで

音符はこぼれる

目をそむけたくなる

命をやめられはしないことだけが日課


詩人になったことがありますか

僕はありません

なりたくて仕方ありませんが

きっとなれません

そのための選択肢が目の前にあっても

おそらくきっと

僕は蝉として鳴くことを選ぶでしょう

冬に生きる夏蝉の滑稽さで

少しばかり

きみの口元を綻ばせることを


心から

詩人になりたいと願います

そして

もっと命の深いところで

きみの慰めになりたいと思うのです

二兎を追うのは

あまり行儀のいいことではないですね


これっぽっちも寂しくて

わずかなところで嫌気がさします

手をつなぎたくて

けれど指は空をきります

ここにきみがいたなら

おどけてみせるのにね


ねえどうか

僕の寂しさのために

うまく慰められてみせて


ホットレモンティーは飲みきって

身をきる冬が届かない部屋で

抑揚のしずく

冷たさの温度

音符がひとつふたつみっつと

跳びはねてパレード

今日も無事に

命をやめられなくて

これっぽっちも寂しい




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る