歩みの水際



好きなものを好きなようにやるだけのことが

どうにも躊躇ためらいがちで

そのくせ夢見がちの

閉塞した自己愛

畢生ひっせいの大事業としての呻吟しんぎん

天稟てんぴんは欠け穿ぐばかりだよ

恋衣こいごろも欷泣ききゅうで濡らしてみたとして

涯際がいさいなしで結構と言える度量もない


せめて今は

誰が敷いたでもない

晦冥かいめいの中で続く改悛の線路を

這うようなていだったとしても

畢命ひつみょうの中で歩ませて欲しい

好きなものを好きなようにやるだけのことが

どうあっても難しく

その割に欲しがり

淡海あわうみに続く一縷いちるの道に

何ら希望を見ないとしても

濡れ色の心で

忘我の心地とは言えなくとも

歩みの水際みぎわにいたいだけ


雫の淫らに心を打たれたよ

怠慢な蜥蜴とかげは微動だにしなかったよ

ここ数日、夏が季節を忘れているよ

コーヒーがブラックで飲めるようになったよ

生き方なんて覚える端から零れていくよ

明けがらすなんてとうに去ってしまったよ

煙草のかざなんてもはやわからないし

逆徒になれるほど熱心にやれはしないよ


ただひたすらの

歩みの水際

濡れ色の心で


月映えの道には程遠い

汝鳥などりになるには遅すぎる

脈絡のない線路

寝腐ねくたれ髪をそのままに

不格好なままで

ただ歩いている

淡海に続く一縷の道を

全うしたくて


雄渾とは間違っても言えるものか

慮外者りょがいものでしかない往路

存在しない復路

仮の宿に浮かべばこそ

螻蟻ろうぎの意地を張りたくもなる


叶うとは夢更ゆめさら思っちゃいないよ

首を左に振る癖を直したいよ

淡海なんて水溜りに過ぎないと知っているよ

自販機に頼りすぎているとわかっているよ


祈りの水際として

歩みのままに

憧憬は蜥蜴に預けたから


祈りの水際として

選びようのない改悛の行程を

寝腐れ髪をそのままに


穿うがたれた自己愛の

小さな悲劇で

一歩を止めない


愛するあなた

願わくは繋がりながら

どうぞ歩かせてください

どんなに不器用でも

あなたの心模様を濁らせることになっても

ただひたすらに

祈りの水際として

淡海に続く一縷の道を

それが何を得ることでなくとも

どうぞ歩かせてください

全うしたくて

それさえ忘れて

濡れ色の心で

歩みの水際にいたいだけ




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