Nocturne in Z-flat Op.99999 No.6



恐怖はある

間違いなくここにある

消えちゃいない

けれど

びっくりするほど澄みわたった気持ちになってしまって

悟りを開いたってほどじゃないけど

夜の呼吸が感じられるようになって

ああ

こいつも普通の生き物と大差ないんだなって

それで妙に安心してしまって

襲ってくるという点については

まるで変わりがないのだけれど

たとえ噛み砕かれても

びっくりするほど澄みわたった気持ちは消えないだろう


I

すべからく

当然なすべきこととして

必ず

そんな呪いが僕を苦しめていた


II

ねじがずれている

それだけのこと

それ以上でもそれ以下でもないこと


III

ノクターンはノクターンであって

他の何も求めてはいない

また、届けるつもりもない


IV

明けない夜はないと言う

それならば

落ちない陽はないとも言える


V

結局のところ全部ねじ

飛来してくるのは夜のねじ

ずれてるのは僕のねじ


VI

けど


VII

ひとつだけ


VIII

確かめたいけど


IX

できていないことがある


X

一度でも、あの子と夜を越えていたなら


XI

愛じゃなくても友情じゃなくても

どんな感情がそこにあったとしても


繰り返すノクターン

僕にとっての呪い

誰かにとってのいたわ

なくしてなんて言わないけど


今にも壊れそうで

今にも逃げ出したくて

(逃げ込む場所はないけど)

今にも殺されそうで

そんなふうに

ねじと

不協和音が

僕を苦しめるというのに

この澄んだ気持ちはなんだろう


この状況を越えるには

誰かの愛が必要かと思っていたけど

そりゃあ

きみとのことが貢献しているのかもしれないけど

でもなんか

違ったみたい

誰かの愛にすがらなくても

こんなふうに

澄むこともできるんだね


結局のところねじなんだって


そんな解を見つけただけで


間違っているのかもしれないけど

そんなことはこの際重要じゃない


────────────────

「おはよう」

「よく眠れた?」

「遅刻するぞ」

「って、自宅で仕事だよねw」

「ブルーベリージャムおいしい」

寝起きのメールは僕が頼んだものだった。今日中にこなさなければならないタスクがあり、寝坊すると時間が足りなくなるからだ。目覚まし時計は枕元に3つもあって、携帯のアラーム機能もあるけど、まずは彼女のメールが一番に届くようにした。メールが6時、目覚まし時計が6時10~30分、携帯のアラームが7時。彼女はご丁寧に1分間隔で5通のメールをよこした。結局僕はその5通目で起きたのだから、彼女の勝利ということなんだろう。ありがたい限りだ。

窓を開けたら、

春の匂いがした。

────────────────


ぼんやりと夢を見た

朝という夢

夢の内容ほど幸せではなくとも

必ず訪れるはずの朝

もはや

救いでもなんでもない

ただの現象

歓迎すべき喜びではあれど


XII

ひとつ言えること

ねじが原因だとわかったからには

夜も昼ももはや関係ないだろう

気づいてしまったらもう前には戻れない

夜の魔と同様に

昼にも鬼がいるよ

白日夢が手ぐすねを引いて待っている

昼は平和だと思い込んでいた僕が浅はかだったのだ

生きろ!と

求めてくる昼の方が

今となっては

よりたちが悪いかもしれない


澄みわたった気持ちは変わらない


きみに会いに行きたいし

あの子のところにも行きたい


もう恐怖でごまかすのはやめにして


息をしよう



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