Nocturne in Z-flat Op.99999 No.3



怯えている

夜の深さに

僕を覆いながらかき鳴らす不協和音に

怯えている


僕だってきみのことは言えない

死にたくなる気持ちを抱えながら毎日を生きている

生きようとしても

息苦しいんだよ


夏の熱に――はっきりとしない意識――うなされながら――声にならない悲鳴――きみが隣にいた頃を思う――薄明かり――きみがいた頃は――月明かり――それでもどうにか――夢食いの重さ――嘆きを形にしようとしていた――明日が今日に変わっていく――今はどこにも出て行かない――熱が溶ける――届ける相手がいない――熱に溶ける――底に濁って――痛まない不毛――芯が見えなくなる――さりげない不幸――自分が何を求めていたのか――不協和音――もう判然としない――不協和音――きみを通して見ていたもの――不協和音――おぼろげな輪郭になって――不協和音――泣きそうなのに――ひび割れたノクターン――その涙の理由がわからないんだよ――きみが弾いたノクターン――どうして僕はここにいるのかな――不協和音――どうやってここに来たのかな――月にかかる雲が光を柔らかくして音符を吐き出していく――とっくに目的地は通り過ぎたのに――月にかかる雲が光を柔らかくして音符を吐き出していく――どうして僕は進み続けているのかな――夜が僕を覆って月明かりさえ満足に見れなくなる――どうして引き返せないのかな――どうして――どうして僕は――ひび割れたノクターン――どうして――きみが弾いたノクターン――きみがいない夜を幾度通り過ぎたら――リタルダンド――だんだん遅く――楽になれる?――アラルガンド――だんだん強く遅く――どうして僕は――スケルツァンド――諧謔的かいぎゃくてきに――不幸ですらないのだろう――ズモルツァンド――だんだん静まって――どうして僕は――ズモルツァンド!――だんだん静まって!――幸いにしてここにいるのだろう――ズモルツァンド!――だんだん静まって!――きみに寄り添うことすらできないのだろう――アッチェレランド――だんだん速く――不協和音――アッチェレランド――そして終わると言う意味もある

――不協和音――

不幸ですらない――

きみに寄り添うことすら

――アッチェレランド!

――できない

――

アッチェレランド!

――

終わると言う意味もある

――

できない


ただ悪い結果を確認するためにだけ

僕は僕のままでいる

涙がこぼれても

その理由がわからない


きみが弾いたノクターン

思い出せない


涙の意味もわからないまま

ふと不協和音が途切れる

静けさに耐えかねて

ひとりでピアノを鳴らす

拙いノクターン

不協和音さえ

鳴らすことが

――

できない



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