Nocturne in Z-flat Op.99999 No.1



夜の色がする

夜の音がある

夜の声がいる


ふと死にたくなる夜の隙間に

きみがいる気がする

夜の夢がする

まだここからいくらでも始められるって

知ってる

でもけれど


涙を流す理由がなくなったように

きみにこだわる必然性も見いだせなくなった

夜の色の向こうに

きみの面影を見る意味はなくなった

ただ続くだけの日々を

グッドイナフとだけ言ってやり過ごしている

求めるものもない

ふと死にたくなる気持ちだけが本当で

ごまかしと自責で取り繕う命

ボーダーラインなんて

とっくに意味がなくなってる

ひとつのことを理解するのに

あまりにも時間をかけすぎた

まだまだわからないことは山とあり

生き延びる理由にはなるかもしれない

でもけれど

きみと夜の色の相関性は

とっくにわかってるつもりなんだよ

言葉にはならないけれど


僕の知らない全てのことを

夜の色の中に投げ込んで

さよならのマーチにしてしまいたい

けれどノクターン


ただ一時の恐怖から逃れるために

ずいぶん無理をした

夜の音があれば

いくぶんか紛れる

もうそろそろ無理はきかない

ただ一時の恐怖を持て余して

死にものぐるいで綴る

そんな音のノクターン


夜明けまで

夜すがら泣くは世の習い

夜風に吹かれ予期せぬ救い


全てが悲しいわけでもない

それがむしろ救いのない音

全てが美しいわけでもない

それが唯一の救いである音


もっと自由に!

もっと激しく!

もっと切なく!

もっとたどたどしく!

もっと!もっと!もっと!


全てを求めておきながら

同時に全てを否定する

夜の声がいる

決して声楽ではないノクターン


手を伸ばす/決して救いではないものへ

夜を駆ける/思いから思いへ繋がる

愛を聞く/全てが虚飾であり自由

消えられない/夜に消えられない

真実/ただここにいるという事実

愛を聞く/全てが真であり束縛

手を伸ばす/いたわりでもある痛みの在りかへ


夜の声に耳を塞ぎながら

もう一度きみの声を聞きたいという

曖昧な矛盾

ノクターン

誰かが鍵盤を叩く音がして

僕は振り返る

そこにきみはいない

何度こうして振り向いたかしれない



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