【31】超虹雷砲


「船首バランサー、正常作動なのです!」

「後方左舷、後方右舷バランサーとも、正常作動なの……」

「左斜め後方へ後退しつつ、艦首を敵本隊方向へ旋回! 敵本隊との距離を取るのです!」

「アイアイサーなのです!」

「ルナリン、隠れ最強だから大丈夫なの……」


 浮上した天空城を、操舵室の3人が巧みに操り始める。


 どうやら、操縦は3人にお任せが良いようだ。

 ひとまず杜乃榎とのえ兵たちを無事に回収し、魔人軍突撃隊の脅威は避けられたと、晴矢はれやがホッと安堵の溜め息をついた、その時────!


 ────前方の魔人軍本隊から、あの赤紫色の回転ノコギリが飛んできた!


 キシャァァァァァァァンンッッッ!!


「きゃあああっ!」

「うるさいのはだめなの……!」


 赤紫の回転ノコギリが、足元の防護シールドに突き刺さり、金切り声を上げて縦に駆け抜けた!

 真っ赤に残る、深い傷跡!

 防護シールドに走ったその赤い亀裂に向かって、火の玉が!


 ズドォォォン! スドドォォォン!!! ズドガシャァァァン!!


「うわっとぉっ!!」


 防護シールドを突き抜けて火の玉が台座にぶち当たる!

 浮上していた天空城がガクンと大きく沈み込むと、敷地内の杜乃榎とのえ兵たちが折り重なって倒れこみ、悲鳴を上げた。

 今の攻撃で腰を抜かした者もいるようだ。


「マヨリン、ルナリン、落ち着いて精霊力の充填を! 充填レベル70%到達と同時に、全方位防護シールドを展開するのです!」

「や、やるなのです!」

「ルナリン、涙目……」


 慌てふためく操舵室を尻目に、魔人軍本隊が次々と火の玉を放ってくる。

 グラグラと揺れては、時折ガクンと沈み込む天空城。

 このまま集中砲火を喰らい続ければ、無事では済まないだろう!!!


「簡単には逃さねーってか? アイツらをぶっ飛ばさねー限り、終わんねーかもな」

「でも! もう、攻撃手段が無いよ!!!」


 何か、反撃手段は無いか────?

 晴矢は操縦席から身を乗り出して、ポップアップウインドウに目を走らせる。


「防護シールド、再展開!!!」


 天空城の周囲にキランと光が煌めいた。

 再展開された防護シールドに、次々と火の玉が弾け飛ぶ。

 だが、その向こうで再び、赤紫の光球が膨らみ始めていた。


「『ミクライ様! ミクライ様!』」


 ヘッドセットから響く、雨巫女あめみこウズハの声。


「『今こそ”超虹雷砲スーパーグライキャノン”を撃つ時! グリサリに、その事をお伝え下さい!』」

「そ、そうだ! 超虹雷砲スーパーグライキャノン……!! グリサリさーん!!!」


 晴矢の呼びかけに、グリサリが天を見上げる。


「なんでございましょう、ミクライ様?」

「ウズハが言うには、天空城には超虹雷砲スーパーグライキャノンっていう超秘密兵器があるって! そっちで何か操作できない?」

「お待ちくださいませ」


 グリサリがコンパネに手をかざすと同時、ルナリンが声を上げた。


「ルナリン、見つけた。これがきっと、超虹雷砲スーパーグライキャノンの精霊力エネルギー充填機能なの……」

「おおおっ! ルナリン有能! それ、やってもらえる?」

「わかりました。マヨリンは引き続き防護シールドへの充填と修復を! ルナリンは超虹雷砲スーパーグライキャノンへの精霊力エネルギー充填を開始!」

「はいなのです!」

「ルナリンがんばるの……」

「ですが、ミクライ様! こちらの操作ウインドウでは、彌吼雷刀ミクライブレード彌吼雷鉾ミクライスピアが無いため、操作エラーとなっております!」

「『ミクライ様ならば、彌吼雷刀ミクライブレード彌吼雷鉾ミクライスピアが無くとも、撃てるはずにございます!』」

「ほ、ホントに……? と、とにかく、こっちで撃てるかどうかやってみる!」

「では、お願いいたしまする。私は、マヨリンとルナリンの補佐を!」


 言うなり、グリサリも水晶球に両手をかざす。

 操舵室一丸となって、超虹雷砲スーパーグライキャノンにすべてを賭ける体制だ!


 晴矢の視界の右斜め上にピコンとポップアップウインドウが立ち上がり、見る見るうちに、メーターが伸びていく。

 超虹雷砲スーパーグライキャノンの『精霊力エネルギー充填レベル』だ。


「……って、ホントに俺が撃てるのかな? 照準マーカーとか見当たらないし……」

「ウズハが、ミクライなら撃てるつってただろ。『天使のサポートシステム』なら、すべて音声認証だ。四の五の言ってねーで、やってみろ」

「そ、そうだな!!」


 晴矢は胸元でグッと握り拳を作ると、勢い良く突き上げた。


「────超虹雷砲スーパーグライキャノン!!」


 ヒュゥゥィィィィン!!


 甲高い音が鳴り響き、天空城の真下に、青い光球が膨らみ始める。


「おおおっ! き、来た!!!」


 周囲でビリビリと極太の電撃が舞い踊り、降り注ぐ火の玉さえも弾き飛ばす勢いだ。


 そして突き上げた右拳に、ブルブルと伝わる感触。

 光球となって膨らむ精霊力の荒々しい唸りだ!

 ライトニングショットのフルバレットブースト並みに暴れ回っている!


「すげえ、コイツ……すげえぞ! これなら……やれる!!」


 右腕から伝わる感触に、思わずニヤリと笑みを浮かべてしまう。

 照準マーカーを魔人軍本隊に定めると、得も言われぬ破壊の衝動が、胸の奥から突き上げてきた。


「この子……大食漢なの……」


 ルナリンが精霊力を注入し続けているにもかかわらず、超虹雷砲スーパーグライキャノンの『精霊力エネルギー充填レベル』のメーターがグングンと減っていく!

 どうやら、ルナリン1人では間に合わないようだ。


「まずは挨拶代わりだ、ぶちかましてやれ」

「よしっ!!」


 握った拳をググっと胸元に引き寄せる。

 そして全身全霊を込めて、ズンとばかりに突き出した!


「────吹き飛ばせっ!!!!」


 ヒュンッッ!! ズドオォォォォォォォンッッッ!!!


 轟音とともに、土砂が放射状に飛び散って、モウモウと立ち昇るきのこ雲!

 周囲の地面を電撃が這い回り、ゴブリンたちが瞬く間に黒靄くろもやと化していく。

 何事が起きたのかと、魔人軍に動揺が走るのが、はっきりと見て取れた。


 程なくして、風に乗って土煙が晴れていく。

 防護シールドに守られた魔人軍本隊がゆっくりと姿を現すが、その両脇から背後にかけては深々と抉られて、丸く黒い地面が広がっていた。

 そこにいた魔人軍も、あの赤紫の光球も、一瞬にして跡形もなく吹き飛ばしてしまったようだ。


「うっひょおおおおおおおお!」

「これは……!」

「すごい威力なのです!」

「ルナリンもびっくりなの……」


 操舵室にいる3人も、思わず腰を浮かせて下の状況を食い入るように見つめている。


「よぉーーしっ! もう一発叩き込んでやろうぜ!!!」

「はい! マヨリンも超虹雷砲スーパーグライキャノンに精霊力チャージを! 私も、全力で参ります!」

「はいなのです!」

「ルナリン、超絶200%発揮するなの……!」


 意気上がる操舵室の3人が、一斉に精霊力チャージを開始する。

 見る見るうちにメーターが伸び上がり、先ほどの3倍以上の数値を叩き出した。


「行っくぜ! お前のフルパワー見せてやれ!!!────超虹雷砲スーパーグライキャノン!!」


 再び、晴矢が右の拳を突き上げる。

 すると一気に青い光球が膨らんで、四方八方に竜の如く、電撃が迸り始めた!



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