【76】邪火消失
ミュリエルが見つめる先では、サンリッドとスクワイアーが縦横無尽に駆け巡っている。
インディラは
ムサビも前線に到達し、
「城壁の魔人軍は、心配無さそうだ」
「あとは、この同士討ちを止めなければなりませんわね。あたくしの大魔法、とくとご覧に入れて差し上げますわ!」
不敵な笑みを浮かべるミュリエルが、クマのぬいぐるみの両手をがっしりと掴み上げる。
そしてキラリと瞳を光らせて、軽やかなステップを踏み始めた。
「パーリィナイッ、パーリィナイッ♪ 眠らぬ夜のララバイ・レディオ♪
パーリィナイッ、パーリィナイッ♪ この世の愉悦にラブ・アンド・キッス♪
天上天下唯我独尊♪ 我が名はミュリエル・リュクシス!
虹の架け橋駆け上り 我が
ま~だまだいきますわよ~~~♪」
クルリクルリとスカートの端をはためかせ、ミュリエルとクマのぬいぐるみが舞い踊る。
そのたびにキラキラと五色の光が溢れ出て、城門の上は華やかなライトアップに彩られた。
「『晴矢くん! 天空城をお願い! 下から持ち上げてくれるだけでも!』」
「おおお、そうだった!」
第二詠唱に入って横にステップを踏むミュリエルを尻目に、晴矢は城門から飛び立った。
天空城は、すでに地表に降り立っている。
だが、押し寄せたギリメカラたちは駆逐され、後続もスクワイアーたちの活躍で断たれているようだ。
ガーゴイルたちは軍勢の端に散り、それぞれに魔人軍の残党を蹴散らしているところだった。
「今度こそこの戦闘を終わらせる!」
気合漲る晴矢は、鼻息荒く、天空城台座にビタっと張り付いた。
「────天空城、浮上っっっ!!!!!」
バサバサとサンダーウイングドラゴンをはためかせると、ミシミシと音を立てながら、天空城がゆっくりと浮上していく。
それと同時に、ミュリエルの声が響いた。
「────セイクリッドレインボぉ~~~☆パ~~ラダぁ~~~イス♪」
「キラキラキラ~~~ン」と心地よい音を響かせながら、防衛ラインの城壁から皇都に向けて、次々に虹のアーチが伸びていく。
虹のアーチに炎天下の陽射しが遮られ、爽やかな空気がサアっと舞い降りてくる。
「『精霊力エネルギー充填率急速上昇なのです! 90%、100%……120%突破!』」
「『ウズハさん、行けるわ! 晴矢くん、今の高度を維持!』」
「オッケイ!!」
「『────参ります』」
雨巫女ウズハが「シャーン」と一際高く、神楽鈴を打ち鳴らした!
「『
神楽鈴をシャンシャンと鳴らしながら、雨巫女ウズハが和歌を詠むが如く詠唱を始める。
すると鈴の音に呼び寄せられるかのように、天空城周辺に水色の光が集まり始めた。
「『第一の波は、
天空城からフワッと現れる水色の光輪!
一気に
皇都城壁に連なる魔人軍の黒い渦を、ろうそくの火の如く掻き消した。
「『寄せて返す第二の波は、力を
広がった水色の光輪が一気に収縮し、目を紫色に染めた連合軍の兵たちや
「『マヨリン、ルナリン! 第三波共鳴!』」
「『はいなのです!』」
「『最強なの……』」
雨巫女ウズハとマヨリンとルナリンの3人が、今度は声を揃えて同じ言葉を紡ぎ出す。
「『すべてを飲み込む第三の波よ────
「シャンシャン」と神楽鈴の音が響くたび、収縮した水色の光輪に向けて虹のアーチから五色の光が集まってくる。
それはまるで溢れ出んばかりの力が漲っているかのようだった。
雨巫女ウズハはカッと両目を見開くと、キリッと口元を引き締めた!
「『────
「シャーン」と高らかに神楽鈴の鈴音が鳴り響く!
瞬間、天空城を中心に、冷たい漣が一気に広がった!
動き始めた
そして、皇都上空で光り輝く灼熱の光球をも消し飛ばした────!
「すげえ! ミュリエルさんの魔法でパワーアップしてるんだな!」
晴矢も歓喜するしか無い。
皇都上空の黒い渦が情けない声を上げて、ぐにゃりと形を変えていく。
幾度と無く広がる水色の輪に押し流されるようにして、その巨大な混沌は宙に霧散し掻き消えた。
「……おお、なんだ? 私は何を?」
「こ、こここ、これは南方の伯爵どの! 剣を向けるなどご無礼を……!」
「いやいやいや! 私こそ、どこか夢でも見ていたような……?」
魔人の厄災の前に、混乱していた連合軍が、まるで冷水を浴びせられたかのように正気を取り戻す。
剣戟は途絶え、不思議そうに顔を見合わせるしかないようだ。
「────各国の将よ! 皆、魔人の妖術に操られていたのだ!」
拡声器の皇子アフマドの声が響く。
「今一度、各軍で団結し、眠る
皇子アフマドの呼びかけに、連合軍が
「
「
「刀兵槍兵は
「魔人軍を完全に掃討するのじゃ!」
いよいよ最終局面、杜乃榎兵は皇都城壁に向けて攻撃を開始する構えだ。
城壁の魔人軍は、混沌を失って
「では、私たちも続きますか」
「だな!」
サンリッドとスクワイアーは互いに頷き合うと、インディラとムサビの後ろに回り込んだ。
ガーゴイルたちは、連合軍に混じっていた魔人軍を一掃し終え、ミュリエルの側に舞い戻る。
そしてその周囲を護衛するかのように城壁に降り立った。
「オーホッホッホッ! 大勢決しましたわね!」
「さすがミュリエルさん! ウズハの『
ヘッドセットからは、雨巫女ウズハのホッと一息つく声と、マヨリンとルナリンのはしゃぐ声が聴こえてくる。
「『みんなご苦労様。晴矢くん、「
「オッケイ、わかった」
皇都城壁では、インディラとムサビを先頭に突撃を開始した杜乃榎兵たちが、次々に魔人軍を斬り伏せている。
だが再び魔人が厄災を発動すれば、魔人軍の混沌が息を吹き返し、杜乃榎兵の士気も乱れる可能性があるだろう。
ロコアは、その芽を完全に摘み取ろうという考えのようだ。
「杜乃榎が皇都城壁に進撃した! 我らの勝利は目前なり!」
皇子アフマドの声に、連合軍から歓声が上がる。
中には、隊列を整えて皇都城壁攻防戦に参戦する構えの部隊もいた。
今度こそ、皇都防衛ラインの戦いは終結し、あとは魔人を倒すのみ────。
晴矢がホッと胸を撫で下ろした、その時だった。
ヘッドセットから「ザザッ!」とノイズのような音が耳を突いて聞こえてきた。
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