【49】彌吼雷の刀
「なるほどな、そういうことか、サウドよ」
落ち着き払った様子の皇子アフマドが、スッと目を細めてニヤリと微笑んだ。
「つまり、だ。インディラに
怒りに燃えるインディラと、愕然とする雨巫女ウズハをよそに、皇子アフマドはスックと立ち上がった。
「
言うなり、皇子アフマドは胸元で、左の手のひらに右拳をパンと付き合わせた。
「天なる城の導きに
我らが拓く時代の果てに 春秋実りの大地をもたらさん────」
呟きながら、付き合わせた左手と右拳をスゥーッと離していくと、フワーッと青い光が伸びていく。
そして光の中から二振りの武器が姿を現した。
「古来、
「クックックッ、隠しておれば生きながらえたものを、格好つけおってからに……」
宰相サウドの周りに控える男たちの目が、じわりと赤い光を放ち始める。
皇子アフマドは
ガタンガタンと音を立てて斬り落ちる、牢の鉄格子。
ものすごい斬れ味だ。
「インディラよ、
「承知!」
素早く牢に踏み込んで、
そして自らの刀とともに、二刀流に構えた。
「あれを奪うのだ! 殺ってしまええいいいい!!!!」
宰相サウドは懐から拳大の石を取り出すと、振りかぶって投げつけた。
瞬時に石から白い靄が上り立つ。
赤い目の男たちが「おう!」と吠え、槍を構えて突進してきた!
「我が剣に刃向かうならば、生命は亡きものと思うが良い!」
インディラがギラリと眼光を光らせ、男の槍を受け止める!
すぐさま受け止めた槍を払いのけて柄を叩き斬ると、左右から突きかかってきた2人の槍も斬り落とした!
「宰相サウド! いや、逆賊サウドよ!! その生命、ここで果てると覚悟せよ!」
インディラの咆哮に、サウドがたじろいでバタバタと後ずさる。
その後ろから次々に、槍を構えた男たちが踏み込んできた。
あの緑髪の仮面男も、いつの間にかサウドの横に佇んでいる。
「世界の王たる我に牙向く愚か者め!! 鬼ども、そなたらの本気を見せるのじゃ!」
緑髪の仮面男の背後に隠れながら、サウドが憎々しげに目を剥くと、槍を切り落とされた3人の男たちの身体に、ボコボコと泡のようものが沸き立ち始めた。
「うげごごご、ぅごあごぐへええっ!!」
不気味な呻き声とともに、男たちの身体が変形していく。
黒紫の禍々しい表皮に、頭には鋭い刺のような
大きさこそ一回り小さいが、あの、雨巫女ウズハと出会った滝壺にいた黒紫の大蛇に違いない!
細長い下をチロチロ動かした後、大口を開けて「シャアアアアア!」と威嚇の声をあげた。
「これは
「きじゅうか?」
「鬼人を超え、人ならぬモノに変身してしまったの。こうなると、鬼人にすら戻れないわ」
「ホーーーッホッホッホッ! 飲み込んでしまえええ!!」
勝ち誇ったようにサウドが扇子を振り回す。
「晴矢くん、この靄の元凶を破壊して」
「オッケイ! ────ライトニングショット!!」
サンダードラゴンボウを引き絞る。
瞬時に現れた雷矢を、靄を吐き出す石に向けて解き放った。
ズガシャァァァァン!!
雷鳴とともに靄を吐き出す石が弾け飛ぶ。
「
「はい、参ります!」
皇子アフマドが雨巫女ウズハの横に寄り添うと、雨巫女ウズハはすぐさま、
同時に、ロコアも錫杖をクルリと回して両手に構え、晴矢はサウドに狙いを定めてサンダードラゴンボウを構えた。
その後ろで小さな呻き声を漏らしていたグリサリが、よろよろと後ずさり、がっくりと膝を付く。
頭を掻きむしり、苦しげに小声で何かブツブツと呟き始めるが、それに構うほどの余裕のある者は1人もいなかった。
「────スパイラルショット!!」
晴矢が光の矢をヒュンと放つ!
シュピィンッ!!
「なに!? またか!」
サウド目掛けて飛んだはずの光の矢を、緑髪の仮面男の投げつけたクナイが掻き消したのだ。
「シャァアアアッ!!」
晴矢の放った光の矢が合図となって、3匹の大蛇が鎌首をもたげて身をくねらせる。
「来い、鬼獣どもめ!!」
インディラが刀を構えるその向こうで、腰を落として「フオオオオオ!」と叫ぶ5人の男たち。
その頭上に渦巻く黒い靄が悲鳴を上げると同時、火の玉が現れて、見る見るうちに膨らんでいく!
「除! 厄! 清! 災! ────
雨巫女ウズハの声と同時に地下牢にシトシト雨が落ち始める。
インディラはザンっと踏み込むと、三方を囲む大蛇向かって二刀を振り上げた!
「キシャアアアアァァァァッ!」
「ふんっ、はっ! せいぃぃっ!」
ザッ、ザシュッ!
目にも留まらぬ剣さばき!
正面の1匹が繰り出す噛みつきをヒラリと交わしさり、左で大口を開けていた1匹を斬りつける!
さらに返す刀でクルンと身を捻ると、右から襲いかかってきた1匹の素首に彌吼雷刀を叩きつけた!
ズバシャァッ!
「キゲェェッ!!」
黒い血飛沫が上がり、電撃が迸る。
苦しげにのたうち回る、首を失った大蛇の身体。
残る2匹も、忌々しげにササッとばかりに後退った。
その直後!
「ぷおおおうっ!!!!」
真っ黒な血飛沫を撒き散らす大蛇の向こうから、火の玉を放つ男たち!
「────グラヴィティボム!!」
それと同時、ロコアも男たち目掛けて黒い泡を解き放つ!
火の玉と黒い泡がぶつかり合って、炎が弾け、轟音が鳴り響いた!
ズドゴォォン! ボブフォアァァァァ!
爆発の左右から2つの火の玉がヒュンと飛び出して、2匹の大蛇とともに襲い来る!
「キシェアアアアッ!!」
「シャアアアッ!」
「火の玉ごと斬り払え! インディラ!!」
「承知っ!」
インディラは両腕を広げて二刀を水平に構えると、その身をグルンと大きくひねった!
「ちぇえええええええいっっ!!!」
ブルンッ、スバシャシャシャシャァァッ!!
「キシェェッ!!」
「ギャフェブッ……!」
舞い散る炎と迸る電撃!
2匹の大蛇が断末魔とともに、黒い血飛沫を撒き散らす!
まさに一閃!!
身を捻りざまの一太刀で、火の玉ごとまとめて叩き斬ったのだ!
電撃に包まれた大蛇の身体に、泡のように丸いコブが湧き上がる。
やがてコブが弾けると同時、大蛇の身体が黒い靄となって霧散した。
「斬れる! この
シトシト雨に、爆炎は白い靄と化してゆっくりと掻き消えていく。
解けゆくその白い靄の向こう。
薄らと浮かび上がってくる人影に、晴矢は構えたサンダードラゴンボウの照準をピタリと合わせた。
やがて現れる、苦々しげな表情のサウド!
「今度こそ!────スパイラ……」
晴矢が今まさにスキルを発動しようとした、その時だった!!
……ズンッ!
「ぅぐぉっ!?」
鈍い音ともに、晴矢の腰に、激痛が駆け抜けた────。
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