第14節 胸が弾む! 女子の体操服はブルマーで

 本日の五限目は体育。五組と六組の生徒が男女に分かれ、合同で行う。体育館の二階にある、男女別の更衣室で着替えた。上は男女共体操シャツ、下は、男子が紺色のショートパンツで、女子が紺色のブルマーという姿だ。

 体育館を男女で半分ずつ使用する。檀上側に男子たちが横並びで整列した。前列が五組、後列は六組。隣同士のクラスといえどまだ馴染みが無い為、皆、多少緊張した面持ちだ。教諭が生徒らを座らせ、点呼をとる。まず五組の方が済み、続いて六組の方が始まった。


 あいつの苗字は何ていうんだろう。


 俺が横目で侍狼を注視する。やがて教諭が呼んだ。


瀬良木せらぎ


「はい」と、ぶっきらぼうに返事をする侍狼。


 瀬良木侍狼、か。瀬良木でいいや。


 クラス対抗でバスケットをすることになり、順番に汗を流す生徒たち。一周目の俺の番が終わり、控えに回った。檀上に座ると、既に控えていた阿部が、隣に腰掛けた。


「珠夜君はスポーツ得意かい」

「やや苦手だな。阿部は?」

「僕はどちらともいえないな。可も無く不可も無しだ」


 阿部が、同じくバスケットをしている女子の方に目を向ける。俺も窺うと、コート内で一際目立つ生徒が居た。遠くから眺めても眩い少女。新星さんだった。

 襟と袖口が紺で縁取られた白い半袖丸首体操シャツを、腰の細さとは不釣り合いなバストが、内側から突き出している。シャツの裾は納めていない。ボールと共に弾む、波打つ黒髪と豊かな乳房。高く跳躍するとヘソが露わに。胸が揺れることを恥じらう様子も無く、縦横無尽に駆け回り、威勢の良い声を出す。彼女には、何をやらせても様になる気がした。


 いいねぇ。もっと揺らせ。


「ああっ、ナスビちゃん、中学の頃よりまた一段とオッパイ大きくなった気がする。どうだい、珠夜君。堪らないだろ」

「お前いつになくテンション高いな。同意は、する」

「はぁっ、ナスビちゃんをマンツーマンで密着マークしたいっ。マークされる側でもいいっ」


 こんな奴が大黒中には何匹も居たんだろうな。そりゃあ写メが高額で取引されるわ。


 新星さんのチームの中に、御手洗さんが居た。小柄な体で、ツインテールを揺らして走り回る姿が、微笑ましい。ボールは、彼女の手に渡ると、やけに大きく見える。


 御手洗さんって、六組なのか。さっきの件があってか、表情は……沈んでるな。

 まぁ人生、色々あるさ。がんばれ御手洗さん。古森珠夜は、御手洗菫を応援しています!


 俺は、壁際にもたれて立っている望月さんを見つけた。控えのようである。

 体操シャツのサイズが小さいのではないかと疑うほど、たわわに実った胸が際立つ。シャツの裾がきちんと納めてある為、体のシルエットが分かりやすい。揺らすまでもなく、新星さんより更に大きなバストであることを、俺の観察眼が確信した。


 おお……。話には聞いたけど、予想以上だわ。だからって、胸ばかり凝視するのは、控えておこう。僕は今、望月さんを見守ってるんだ。あ、ビブス着ちゃった。出番らしい。


 束ねた髪をなびかせ、ドリブルで敵陣に攻め込む望月さん。心なしか胸の揺れを気にしている素振りが、見受けられる。下半身の、紺と黒に挟まれた、白き曲線美が艶めかしい。

彼女への愛おしさが募る。加えて独占欲が膨らんでいく。


「おおぉ、絵利果ちゃん、でかそうだとは思ってたけど、あんなに巨乳だったとは。上には上が居るということか。しかしビブスを着てるのが悔やまれるね。次回は六組が着ればいい」

「お前は新星さんのファンじゃなかったのかよ」

「ナスビちゃん以外でも、魅力的な女子には体が反応してしまうのさ」

「このエロオヤジめ。それにしても、オッパイのインフレが、驚異的だな」

「うむ。もはや我々には成す術が無い。彼女たちの成長はとどまることを知らないようだ」


 望月さんを新星さんがマークした。身長差は拳二つ分ほど。


「ああっ、あの四つのオッパイに挟まれて窒息死したいっ」

「さっきからオッパイの話ばっかりだな」

「何か不満でも?」

「とんでもない。大いに結構だ。俺巨乳大好きだもん」

「とはいえ珠夜君。ここで敢えて、下半身に着目してみるのも、一興ではござらぬか」

「受けて立つでござる」

「万葉市内の小中高ってさ、今年度から一斉に、女子の体操服はどこもブルマーを指定するようになったってね」

「あぁ。大昔は、日本の学校に於ける女子の指定された体操服って、体操シャツにブルマーが一般的だったらしいけど、移りゆく時代の中で廃止されてって、ブルマーを指定する学校は完全に絶滅してたんだってな。ネットで見たことある。女性側の反発が強かったからみたい」

「そうそう。ブルセラの問題や、男女平等の観点からね。ところが、万葉市内では復活した」

「万葉市長がブルマーフェチなんじゃね。ともかくブルマーの件で、万葉市が全国的に知名度アップしたって言われてるよな」

「今年度から制服はブレザーになったことも踏まえて、珠夜君は、どういう感想だい」

「……温故知新が、悪いことだとは思わんよ。古きを訪ね新しきを知る。優美なものは、いつまでも残ってほしいもん。しかしだな、激動の世の中、流行り廃りが目まぐるしいのも事実だ。周りに流されず、新旧問わず、自分の好きなことを追求する方が、満足できるだろうよ」


 俺が述べ終わると、阿部は何度も頷きながら、小さく拍手をした。俺は女子の方を向く。


「ナスビちゃんや絵利果ちゃんが、君と接してる理由、僕には理解できそうだよ」

「やっぱりブルマーの色は、紺が至高だよなぁ」

「話を逸らすな。でもまぁ、彼女たちを見てると、生きる希望が湧いてくるよね。僕の倅も元気になってしまったよ」

「お前がそんな下品な奴だとは思わんかった。短パンでは危険だぞ」

「お宅の息子さんはどうなんだい」

「封印が解けてな、真の姿に、って何言わせんだよ」

「オッパイの話に戻るけど、担任の筧先生もグラマーだよね」

「そうだっけ。いつもスーツ着てるから、分かりにくいわ」


 新星さんと望月さんに出会ったせいか、歳の差もあってか、俺は筧先生を性的な対象としては、さほど意識してないんだよな。


「君の席なら、角度的に良く分かるはずだろう。朝礼や終礼やホームルームの時、君は一体どこを見てたんだい」

「お前がどこを見てんだよ」

「あー、絵利果ちゃんね。成る程」

「俺の席からは望月さん見えねーんだよっ。お前の席からだって同じことだろ」

「おっと、僕の番が来た。えぇい、わが息子よ、沈まれっ。じゃあ失礼、珠夜君」


 阿部は前傾姿勢でコートに入っていった。


 敵に回ったとか言いながら、意気投合してんじゃねーよ。

 まいったな。俺、暫く立てんわ。こんな時は無になろう。目を閉じて、心を無にするんだ。


 光無き世界で過ごすこと数分。突如、顔に激しい衝撃が加わり、仰け反った。周囲を見回す。


 今のはボールだな。誰だ、ぶつけやがったのは。こぼれ球が飛んできただけか。


 二周目の俺の番になった時、丁度相手チームの中に瀬良木が居た。否応無く意識する。


 瀬良木、バスケの実力はどうなんだろう。巧かったりして。


 実際に対戦したところ、自分よりは上手うわてだ、と肌で感じた。淡々とプレイする瀬良木。


 俺と同じく、昼休憩に図書室で読書してる奴だもんな。大した腕前でもないか。


 俺の視界には、控えに回っている望月さんが映った。彼女は男子の方を向いている。


 体育の授業は、俺も、ある意味嫌いになりそうだ。切ないから。

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