059 - hacker.miss(enemy.shape);

 フォークスと名乗る集団によって、突如『ムリゲー』と化したマギフェスティバル。

 ボスがさらわれ、さらにはシィまでも。バレットはマギで危害を加えられたという。

 ムリゲーの内容は『フォークスのメンバーを見つけ出す事』。フォークスだと確信した相手に【お前がフォークスだ】と宣言できれば僕の勝ちでボス達は解放される。もしできなければ、どうなるのかわからない。


 慌てて、奴らを探しだすために会場を走りだそうとするが、マイクはまだ切れていなかった。


『あ、そうそう。これだけだと難しいだろうからヒントあげるねー。フォークスのメンバーは会場のどこかにいまーす。会場の外にはいないから探しても無駄だよー』


 ヒントになっていない。そんなのは当たり前の事だと思っていた。会場の外にあるトイレなどが捜索対象外になっただけだ。


『それと、制限時間は今から1時間ねー。あんま長過ぎるとダルいし、ま、一方的に時間切れ宣言してもよかったんだけどさー。俺って親切でしょお? はははは』


 ギリリッと音を立てて奥歯を噛みしめる。1時間だって? 短すぎる。そんな短い間に会場を回りきれるわけがない。ましてやフォークスを見つけ出すなど不可能に近いだろう。


 無理難題をふっかけられて、逆に冷静になった。

 不可能というキーワードによって、僕の中の論理回路にスイッチが入る。プログラマは不可能だと思える課題にだって挑戦しなければならない事はしょっちゅうある。そういう時は、まずとっかかりを見つけて、問題を小さく分解していくしかない。不可能を不可能たらしめている部分をなるべく絞り込んでいくのだ。


 今まで向こうに一方的にペースを握られて展開が進んでいたのと、ボスとシィの事が心配で全く頭が働いていなかったが、よくよく考えてみればおかしい点が噴出してくる。


 まず、ゲームのおかしさ。【お前がフォークスだ】と宣言するといっても、いくらでも誤魔化す事ができてしまう。宣言された相手がとぼけてしまえば、こちらに証明する手段がない限りどうする事もできない。証明できるとすれば、ボスを監禁している場所を直接見つけだすか、フォークスを目撃した他の人に証言してもらうぐらいだろう。

 いくらムリゲーだと言ってもあまりに一方的な条件すぎる。クリアさせる気がないとしか思えない。いや、もしかしたら本当にクリアさせるつもりがないのではないか。


 次にフォークスという集団の目的。僕がマギハッカーの再来なんて呼ばれている事にムカついたなどと言っているが、それだけで本当にこんな騒ぎを起こすものだろうか? 特に王様への攻撃というのは、この国では最上級に近いタブーであり、いくら司法制度があるといっても捕まれば重刑を免れないだろう。王様の被害状況によっては死刑もありうるレベルだ。

 そんなリスクを犯してまで起こした騒ぎが、僕へのただの挑戦? 嫌がらせ? 捕まらない自信があるのか、単に考えなしなのか、それとも実は別の目的があるのか?


 そして手際の良さ。僕が会場にいない間に事を起こし、介入を許さなかったのはあまりにタイミングが良すぎる。計算づくだったというのは考えすぎだろうか? もしそうだとしたら、かなり緻密に計画された犯行に違いない。僕が会場を離れたのはシィのトイレのためなので予測できなかったはずだ。

 シィをさらった時の手際も良すぎる。僕とシィが離れたタイミングで即座に事を起こしている。その上、シィには僕が仕掛けたマギによるがあるのだ。あれは知らなければ回避は難しい。時間稼ぎをしている間に、シィとバレットなら逃げる事もできるはず。しかしマイクの男の言った事によればシィも確保されてしまった。つまり、シィのマギの事が可能性が高い。


 奴らは最初から僕を標的に監視していたのだろう。恐らく今もまだ少し残っている観客達にまぎれて、どこかで僕の事を監視している。そうでなければ、僕が宣言する相手を間違えた事すら知る事ができない。

 そして僕達の近くにいなければわからない事までよく知っている。シィのマギの事もそうだが、僕とボスの関係も知っていたのだろう。そうでなければ、人質にする意味がない。

 もしこれが事前に入念に調査した結果だとするなら、遊び半分の計画だとは思えない。ここまで執拗に付け狙われる理由は思いつかないが、やつらの行動はふざけているように見えてしっかりとした計画に基いているように思える。単にマギハッカーと呼ばれるだけでない、何か僕が狙われる理由があるはずなのだ。


 とにかく、まずは情報を集めるべきだ。フォークスという敵の事を知らなければならない。

 僕はしっかりと地に足を着けて動き始めた。


//----


「し、師匠! ルビィさんが……!! ごめんなさい、私がもっと動ければ……」


 まず向かったのは会場の中央にいた二人組の元だ。近くで見るとパールは青い顔をしてぺぺ君にしがみついている。どうやら相当に怖い思いをしたらしい。ボスがさらわれた現場に居合わせたようだ。


「いや、君をせめるつもりはないよ。それよりも、パールは大丈夫だったかい? 周りに倒れている人もいるみたいだけど……」


 そう言って辺りを見回す。倒れているのは若い青年が数人で、生徒ではない。よく見れば『黒い縄』で縛られている。これはマギサービスで出せる縄だ。


「こいつらはよ、いきなり俺たちを襲ってきたんだよ。ま、返り討ちにしてやったけどな」

「すごかったんです、ぺぺ君! こう、マギでババーッてあっという間にやっつけちゃって!」


 どうやら、パールが無事なのはぺぺ君のおかげらしい。彼女もまた僕の関係者として狙われたのだろう。パールはマギが得意だと言っても荒事には慣れていない。どうやらこういった事にも手慣れているらしいぺぺ君がいなければ、パールもまたさらわれていたに違いない。普段はやる気なさげなのに、やる時はやる男だ。


「ありがとう、ぺぺ君。よくパールを守ってくれた」

「へっ、別に大した事ねぇよ。それよか先生、さっさとその彼女を助けだしてやれよ。最初の授業で言ってた『本命』ってその人の事なんだろ? あんなムカつく奴に負けんじゃねーぞ」

「そうだね……うん。ありがとう」


 お礼を言って、転がっている青年達に近づく。パールを襲おうとしたのなら、フォークスのメンバーか、その関係者に間違いないとは思う。こいつらに宣言してもいいが、もし違うとしたら取り返しがつかない。念のため、話を聞いてからでも遅くはない。


『あー、そうそう。そこで転がってる奴らはノーカンねー。マギアカデミーの生徒に負けるような奴らはフォークス失格だし、そいつらに宣言しても無駄だから、よろしくー』


 すかさずマイクの音声が捕捉を入れてくる。やはり、どこかで見ているのは間違いない。そして、それが即座にマイクの男に伝わっているところから見て、何らかの連絡手段を持っている。


 思いついて、電話マギサービスの管理画面を呼び出す。


 もし奴らが電話を連絡手段に使っているなら、この近くで電話中の端末を探せば場所を見つけ出す事ができるはずだ。電話の会話内容は暗号化されているため、運営の僕ですらわからない。しかし、電話中の位置情報だけは利用統計情報のためにわかるようになっているのだ。


 付近で電話している端末は結構多い。会場内にもチラホラと存在している。家族や身近にいる人と連絡を取り合っているのだろう。こういう混乱した状況ではよくある事だ。電話マギサービスが普及するのは普段なら大歓迎なのだが、こんな時にはそれが恨めしくなる。

 しかし電話しているからといってフォークスと決めつけられるわけでもない。結局、最初の問題に戻ってしまう。いかにして相手をフォークスだと認めさせるかが問題だ。


「二人とも、ボス……司会をしていた赤い髪の女性だけど、その人をフォークスの奴らがさらう場面は見ていたの?」

「いいや、俺は見てないな。最初に王様がいる方で爆発があって、そっちを見たらなんか揉めてるみたいだった。んで、いきなりもう一回爆発があったんだ。やべーって思って逃げようと思ったんだけど、こいつが手をつかまれてるのを見つけちまって……」

「私はルビィさんが連れ去られるのを見ました。爆発音がした時ビックリしたんですけど、どこからした音かはわからなくて、見回してたら運営席にいるルビィさんが連れられていくところだったんです。最初は何か揉めてるのかな、と思ったんですけど様子がおかしくて……。助けなくちゃ、と思ったら私も急に後ろから腕をつかまれたんです」

「そっか……ボスを連れていった奴はどんな格好だった?」

「遠目ではっきりとはわからなかったですけど、黒い格好をした男の人だったと思います。ルビィさんも背が高いですけど、その人はルビィさんよりも背が高かったように見えました。それに、腕も結構太かったかな……顔は黒いお面を着けてたみたいで、見えませんでした」

「うん、わかった。ありがとう」


 黒いお面をかぶった背の高い男。どうやら少しずつ相手の姿がはっきりとしてきた。


 二人からの話はそこそこに切り上げて、倒れている青年達からも話を聞く事にする。気絶しているようだったので、一人を選んで水生成のマギで水をぶちまけて乱暴に起こした。


「ぷはっ! な、なんだぁ!」

「起きたか? お前らはフォークスのメンバーだな?」

「げぇっ、マギハッカー! ど、どうしてフォークスの事を知ってるんだ!?」

「そんな事はどうでもいい。計画ではボスを、ルビィ=レイルズをさらってどうする予定だったんだ?」

「そ、そんな事言うわけねえだろ!」

「そうか……それは残念。あんまり手荒な真似はしたくないけど、仕方ないな」


 そう言って、マギデバイスを青年にこれ見よがしに向ける。もちろん、本気で撃つつもりはなかったのだが、彼はすかさず降参してくる。


「ま、待てっ! わかった! 話すからやめろ!」

「なら早く話すんだ。ボスをさらってどうするつもりだ? 王様にマギを撃つなんて僕へのちょっかいにしては大げさ過ぎる。何か別の目的があるんだろ?」

「別の目的? し、知らねえよ。いや! 待て! 本当に知らねえんだって! 俺は単に面白い事になるって『ミーティング』で聞いて、参加しただけなんだって! まさか王様に向かってマギを撃つなんて、とんでもない事やるとは思わなかったんだ!」

「ならどうしてパールを、あの女の子をさらおうとした?」

「そ、それは……計画でそうなってるから、とりあえず従おうと思っただけだよ。ビビって尻込みなんかしたら、他の奴らに馬鹿にされちまうからな……」


 軽い。そう思った。この青年は、別に正しい意味での確信犯のような確固たる信念を持っているわけでもなければ、悪い事をしているという自覚も薄い。ただ単に「面白そうだから」「馬鹿にされるから」という理由だけで犯行に及んだ。


「計画ではパールをさらって、どこへ向かう事になっていた?」

「ああ……えーと、会場の外にある倉庫だったかな? 他の奴が知ってるぽかったから、俺はあんまちゃんと覚えてねーんだ」


 倉庫。とりあえず有力な証言が得られた。だが、マイクの男が言っていた「会場の中にいる」という言葉とは矛盾する。会場の外でフォークスを見つけたと宣言しても無効扱いにされるかもしれない。

 しかしボスとシィを助けられれば、こんな理不尽なゲームに付き合う必要もない。やはり今すぐにでも向かって直接対決するべきだろう。となると問題となるのは、相手の戦力だ。


「他に何人ぐらいのメンバーが参加している?」

「確か6人ぐらいいたはずだけど……」


 ここに転がっているのは3人だから、あと3人ぐらいはいることになる。


「あの爆発のマギは、お前らの間では誰でも使えるようなものなのか?」

「いや……あんなマギは知らねぇけど……」

「他にどんなマギを使える?」

「は? マギサービスのマギなら誰だって使えるだろ?」


 ……? 話が通じていないのだろうか?


「マギサービス以外でどんなマギを使うか聞いてるんだけど」

「な、なんだよそれ。マギって言ったらマギサービスのマギじゃねえのか?」


 そうか、地球のハッカー集団に似ているから勘違いしていた。どうやらフォークスとは、マギを面白くおかしく使ってすると言いながら、別に自作のマギを作れるほど得意とする集団というわけではないらしい。要するに、ただの面白い事が好きな犯罪者集団という事なのだろうか。となると、あの爆発のマギは一体なんだったのだろう。


 いぜん相手の姿は茫洋として、掴むことはできなかった。

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