第70話 恐怖

振り返るとそこの笑顔のルナがそこにいた。ただその笑顔はどこか影っていた。


「いや、これは……」


僕は最初告白されるかもという下心だけでここへ来ていた。そのため、ルナの問いに対して口ごもってしまった。


「シンくんどうにかしてよ」


僕がルナへの答えに悩んでいると、ルキが近づいてそう小声で言ってきた。


「どうにかってどうすれば良いんだよ?」


僕もルキと同じくらいの声量でそう答えた。


「それは……頑張って」


そんな人任せな対応のルキに少し呆れてしまった。


「おい!それは酷いんじゃないか?そもそも、おまえが——」


「ねぇ?2人でこそこそと何を話しているのかな?」


僕がルキに一言文句でも言おうとしたところで、ルナが僕たちだけで会話しているのが、気に入らないのか、さっきよりも冷めた声音でそう言ってきた。


「いや、これは、そう、ルキに呼ばれてここに来たんだよ!」


僕は聞いたこともないようなルナの声に少し焦っていた。そのため僕は濁さないといけないことを言ってしまった。


「ちょっと、シンくん!それはダメ!」


ルキの制止は間に合わなった。


「え?」


僕は最初ルキが言っている意味を理解できなかった。


「なるほど」


ルナはいつもの明るい声と笑顔でそう言った。


僕はルキの制止の意味がやっぱりわからなかった。今のルナを見れば、言っても問題はないと断言できた。


「つまりその女がシンくんを誑かしたんだね?」


しかし、そう思ったのも一瞬で、ルナは感情がなくなった表情と冷めきった低い声でそう言った。


僕はルナの変貌ぶりにたじろいでしまった。


そのたじろいだ一瞬でルナが目の前から消えた。


正確には消えたのではなく、高速で移動しただけだ。それでも僕はルナを一瞬見失った。そのため、対応少し遅れて時しまった。それでもすぐにルナを捉えることができた。


それで、ルナが僕の後ろにいるルキに何かしようとしていることがわかった。


僕はギリギリのところでルナを後ろから羽交締めにすることに成功した。なんとかルナを止めることができて安心した。


ただ、僕はルナを一瞬見失ったことに焦りを感じていた。


ルキも遅れてルナが近くまで迫っていることに気づき、驚いていた。


「うわっ」


ルキはルナが迫ってきていることに驚き、後ずさった。


「シ、シンくん!?」


ルナは後ろに振り向き、シンの方を見てそう言った。このとき、ルナの顔が少し赤みを帯びていたが、余裕のなかったシンはそのことに気がつかなかった。


「は、はい、何でしょう?」


ルナの勢いに押されて、変な言葉で聞き返してしまった。


「は……離して!この女を殺せないでしょ!」


ルナはシンと密着している状況を理解して、離れたくなかったため、離してと言おうか迷った。でもルナはそれ以上に目の前の女を始末する方が重要だと判断し、そう言った。


「いや殺せないとか、親友を殺そうとするなよ?!」


「え?親友?って、ルキだったの?」


そこでルナは初めて目の前にいるのがルキということを認識した。


僕はルナがルキということを認識したことで止まると思い、安心し、少し力を抜いた。


「ま、そんなこと関係ないけど」


僕はその言葉を聞いて、抜いた力を再び入れ直した。


僕は全然話してこないルキが気になり、ルキの方を見た。


ルキはどこか清々しい表情をしていた。


「えっと、ルキさん?大丈夫?」


僕はそんなルキが心配になり、話かけた。


「はい、大丈夫です。死ぬ覚悟はできました」


「いやいやいやいや!全然大丈夫じゃないんだけど?!というか、簡単に諦めるなよ!?」


僕はルキの突然の死宣言に動揺した。


「いえ、もう誤魔化すことはできませんし、誤解を解くことも無理でしょうから」


「あら、潔いのね。じゃあ、死んで」


「せめて、痛みがないよう——」


「いやいや!人を無視して話を進めないでくれるかな?!」


僕は、そう言いながらルナを拘束する力を強めた。


「無視なんてしてないよ。シンくんが話に入ってきたとしても、結果は変わらないわよ」


「そんなことないだろ!」


「変わらないわよ」


そう言って、ルキは聞く耳を持とうとしなかった。


僕はルナを止めない限り、状況が好転しないと思い、ルナをどうにかしようと思った。


ただ、どうしてルナがここまでルキに怒っているのかわからなかった。僕はルキの言葉と状況から、嫉妬だと何となく思っていた。


原因を探っていたところで、ルナを止めるか落ち着かせないといけないので、そちらを考えることにした。


気絶させるのが1番良いと思う。ただ、よくある首を強打する方法が考えられるが力加減などわからない。もしそれで後遺症なんて残っては嫌だ。


そこで思いついたのが、キスをするというものだ。前もキスをして気絶させたことがある。そのため今回もそれで気絶させることにした。ただ、恥ずかしく、それを実行することは躊躇った。


一旦キスから離れるも、ほかに方法が思いつかず、結局キスすることにした。


僕は覚悟を決めて、実行することにした。


僕は、拘束を少し緩め、ルナを無理やり振り向かせ、キスをした。


キスとはいえ、それは唇が触れる程度のもので、恥ずかしさもありすぐに唇を離した。


唇を離してルナの顔を見ると、口をパクパクさせていて混乱しているようだった。ただ、気絶させるところまでいかず、意識はまだあった。前にもキスをしていたので、耐性ができていたらしい。


僕はルナが気絶しないことに焦り、再びキスをしていた。ただ今度は唇が触れる程度ではなく、舌を絡めるようにした。顔から火が出ていると思うほど顔が熱くなっていた。


恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだったが、僕はルナを気絶させなければという一心でずっと舌を絡め続けていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る