3-10 さよなら哀しき人生よ

 瓦礫を持ち上げると、ドワインが眩しそうにこちらを見上げていた。


「ハロー」


 サンディはにこりとそう言うと、彼の襟の部分を引っ掴み瓦礫の中から引き出した。

 陽は既に天高く上がている。

 その為、照りつける太陽は容赦なくドワインの顔を焼く。

 

「単刀直入に言いますと、アナタには死んでもらいます」

「……そうか」

「あら、意外。もう少し、助けてくれ~とか金ならいくらでもやる~とか悪人らしいこと言ってくれると期待してましたのに」

「俺は馬鹿だが……往生際くらいは理解してるつもりだ」

「では、そのことに免じて、アナタを殺すよう仕組んだ人物を明かしてあげましょう」

「それは気になるな……この町の住人か?」

「いえ。アナタのお父様ですわ」


 そう言うと、流石のドワインも少し驚いたのか、赤い口元をぱくりとさせた。

 腹部に深々と突き刺さった木の杭から見て、もってあと数時間。運が悪くて今夜まで、といったところであった。

 サンディはそのことにとくにこれといって感情は覚えない。

 なるべくしてなった、それだけだ。

 

「そうか……親父がね……」

「理由も教えましょうか?」

「どうせ、目障りにでもなったんだろうよ……出馬でもするのか?」

「いいえ。この町が邪魔だったみたい。アナタはおまけ」


 ドワインはきょとんとした後、「ふぐっ」と血を吹き、真っ赤な歯を見せて笑った。


「親父らしい」

「良く理解している様で」

「親父が俺の事を……分かってるように、俺も親父の事は分かっているとも」

「そうね。あなた達よく似てるもの……で、それをふまえた上で当然アナタが抱く感情もまた私は理解できているのよ」


 ドワインが虚ろな瞳をサンディに向けた。

 サンディはにこりとウインクをしてみせる。


「どうかしら……私を雇う気はある?」

「は……報酬は?」

「そうね、お胸のポケットにしまってある権利書を頂けるかしら?」

「して、見返りは?」

「アナタの一族を破滅させる」

「…………いいとも……俺はもう死ぬ。好きにしろ」

「どうも」


 サンディはにこやかにそう言うと、ドワインの胸ポケットから土地の権利書を抜き取った。

 幸運なことに血で汚れてはいない。

 その時、ドワインの手が彼女の手首を掴んだ。


「頼みがある……」

「はい?」

「楽にしてはくれないか?」

「あー……無理ですわね。民主国家的に多数決には勝てませんもの」


 彼女がそう言って立ち上がると、彼女の背後にはずらりと角材やスコップを持った町の住人達が辺りを埋め尽くしていた。

 その顔には憎悪とも言うべき醜い物が浮かび上がっている。

 

「貴様ァ!」


 ドワインが叫んだ。

 サンディは振り返らずに歩みながら、民衆を掻き分け歩いて行く。

 そして、手にしたこの土地の権利書を振って見せた。


「ごきげんよう!」


 彼女がそう言った途端。ドワインが何か言った気もするが、ドスッという鈍い音とともに何も聞こえなくなった。

 背後から聞こえる肉を叩く音に少し顔をしかめながらサンディは前から来る少女に目を向ける。

 

「あら、アナタは参加しないの? えーっと……」

「ティナです」

「そう。ティナ! 悲しき少女ね。親を殺され、自分も辱められた。悲しき悲しき女の子」


 おどけたサンディの口調にティナは少し下唇をかみしめた。

 サンディもまたその表情から笑顔は消えている。

 真一文字に結んだ赤い唇が只々、不気味で、恐ろし気だ。

 

「アナタは言いましたよね……似たような経験があると」

「ええ」

「私にはとてもじゃないですけど……その……辛くて」


 ティナは静かに肩を揺らした。顔を手で覆ったが、その指の間隙を雫が伝う。


「そうやって……哀れな女として生きていく気ならば好きにすればいい」

「でも……」

「どうする気なの? そうやって泣いて、哀れですって周りに言って回る? 良いでしょうね。アナタ美人だし、チヤホヤされるんじゃないの? で? それで? その後は? 適当な男見繕って養ってもらう? それとも、男にチヤホヤされるのに悦んで、娼婦にでもなる? 床で身の上話をして、男の同情混じりにファックしてもらう? いいんじゃない? それも人生。もっとも、私から言わせれば糞そのものだけどもね」

「…………」

「何が糞かって言えばね。それは、憐れんでいればそのうち誰かが何とかしてくれるって、思ってるからよ」

「でも、私には何もできない。力もないし、お金もない。誰かにどうにかしてもらうしかないんです……」


 すると、サンディは途端ジャケットのポケットから紙幣の束をティナに投げつけた。


「拾いなさい」

「え?」


 ティナは落ちた紙幣を拾おうとはいつくばった状態でサンディを見上げている。


「金はそこにある。力はそれでどうにでもなる……で、アナタはどうする?」

「私は……」


 ティナは紙幣の束を握りしめ、立ち上がった。


「強くなりたいです」


 力強くそう言った彼女に、サンディの顔がにこやかに向けられる。


「よろしい。軍はいつでもだれでも人員を募集していましてよ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

GUNS OF THE REVENGERS(邦題:続・荒野のコンパネロ!!!) 舞辻青実 @aomington

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ