2-2 とても冷え込むこんな夜は……
夜のとばりは遠く狼の鳴き声と共にゆっくりと落ちる。
リタとウィルの二人は岩場に腰かけながら、地平に落ちる最後の陽をただただ無言で眺めていた。
それに何か意味があるという訳ではないのだが、リタが一人岩場の上で地平を眺めているのを見て、自分も見てみようかなと軽い気持ちでリタの隣に腰を下ろした結果、どうにも動けなくなったという次第だ。
もぞもぞと二人は少し動いたり、時より頬をかいたりするが、それ以外の大きな動作は見せる気配が無い。
岩の下では熾した焚火が二人の背中をオレンジ色に照らしている。
何かを喋ろうと、ウィルは考えた。このまま無言ではなにやら……気まずいし、妙な気分になる。
「なあ」
口をOの字に開けていたウィルであったが、先に言葉を発したのはリタの方であった。
少しばかり早口な声だ。おそらく彼女も何か喋ろうと急いたのだろう。ウィルにもその気持ちは痛いほどわかる。
「お前、どうして軍人なんてやってんだ?」
それは俺も聞きたいことだ。どうして盗賊なんてやってる?
喉の奥まで登って来たその言葉を言えば議論は曖昧になるだろう。それは真面目に聞いてきた彼女を愚弄する行為だ。人としてそれは許せない。
ウィルはそう考え、出かけた言葉を飲み込み、リタからの問いについて考え始めた。
どうして?
自問する。
「そりゃ、そうするしかなかったからさ。成り行きだよ、成り行き」
思いついた言葉をそのまま口に出す。当たらずとも遠からずと言うやつだ。誤差の範囲で、問題ない解答だろう。
ウィルはそう思っていたのだが、如何せんリタの方はその答えに満足していない様子で、胡坐をかいた膝に頬杖をついてじとっとした視線をウィルに向けていた。
「詳しく。話し濁そうとしても駄目だぜ」
「……言いたくない、じゃ駄目か?」
「駄目」
「オレにもプライバシーってもんがあるんだぜ。知らないようだけどな」
「知らねえよ。何だそりゃ食えんのか?」
「食えねえよ」
「そう言うこった。ほら、言えよ」
「どういうこったよ!?」
キリが無いな。
ウィルはため息をついて「分かりましたよ」と肩を竦めて首を振って自嘲気味に笑った。
リタは依然変わらず、頬杖をついた状態で興味深そうにウィルの方に視線を向けている。さながら巡回の三文芝居を楽しみに待つ子供のような、そんな期待を含んだ瞳だ。
ドライかと思いきや、こんなに純粋なとこもあるもんだから、分からねえ女だよなぁ。
ウィルはそう思うが、彼はリタのそんなところに少なからず惹かれているというのも紛れもない事実ではある。本人が認めようとも認めまいとも。
「オレのガキの頃まで遡ることになるぜ?」
「いいぜ。朝までかかろうとも、付き合ってやるよ」
得意げにそう言うリタにウィルは小さく頷き、彼の身の上を語り始めた。
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