幼い思い出に浸るは冬の女王と英才王、そして──《虹》イーリス

喪った友人ソフィネの復讐に燃えるエリス(エリザベト)は、ある夜、友人の仇としてゲオルクを呼びだす。偽名でカードゲームに興じる《女王》ダーメ、《王子》ブーベ、《王》ケーニヒの諸氏は、おのおのの事情からゲオルクに恨みを抱いている。

冒頭のこのシーンを読んでいるうちに、すっかりと「長編を読み始めた」ことは頭からふきとんでいた。カードゲームのあいまに真相の明かされる推理ものの短編。そうしたふんいきを持った幕開けだ。

じわりじわりと謎に迫るなか、ものがたりはリリカルな推理ものからファンタジーへとおもむきを変える。事件の黒幕は、いったい──? 読み進める手はとまらない。

そうして、クライマックスにて、二度目の変容が起きる。ものがたりの舵はファンタジーからまた、あらたな方向へと切られていく。二転三転するものがたりの真相もさることながら、ゲオルクをはじめとしたキャラクタの魅力も、鮮やかに映える虹のように姿を変え、楽しませてくれる。

このものがたりは、単なる復讐譚にとどまらない。ラストには、明るい大団円が待っている。暗くて辛い話が苦手で、というかたでもだいじょうぶ! どうか一度、読んでみて欲しい。

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