「ねこ」と部活動

突然だが、悠は手芸部所属だ。


手先が器用な彼女は、それを生かして物を作るのが好きだったのもあって、部室には作品であるあみぐるみなどが置かれていた。


「ゆーちゃん見て見てー♪新作ー!」


「わあっ、かわいい!いっつも思うけど凄いよねまり!」


淡いスカイブルーの空に架かる虹を見上げる灰色の猫が描かれたワンピースを見せるのは、同じ学年の新城 真里まり


胸元に向日葵の刺繍が入っていて、それもワンピースを引き立たせるいいアクセントとなっていた。


「どうよ!とは言っても、半分はゆーちゃんのおかげっていうかね?」


ちょっと照れて人差し指で頬を掻きながら、真里は茶色の高い位置で止めたポニーテールを揺らす。


「どういうこと?」


「ゆーちゃん見るとね?こう、ゆーちゃんに作ってあげたくなっちゃうっていうか、創作意欲がすっていうかね?」


うんとーうんとー、と言いながら、新作を右手で掴んだまま首の前あたりで円の形を描くように手を動かす。


これは彼女のクセで、言いたいことが伝えられない時にするので、ちょっとかわいいと悠は思っていた。


そして2人で笑っていると、他の部員達が集まってきた。


やっほー、などと気安い仲間と、声を掛け合うと、自分達の作品のイメージを膨らませたり、作っていたりと個々に作業するのがいつもの日常なのだが。


そこに、普段なら聞こえない場所から珍客の声がした。


「にゃー」


「わぁっ、かわいい!!ネコだー♪」


笑顔で出迎えられた廊下から来た珍客は、悠にとって見覚えのある・・・


「ん?このネコ・・・?」


にゃーうと鳴いて悠を見上げるその瞳は、深く吸い込まれそうな高貴な紫で。


「えっ?!ゆみちー?!」


み゛ゃーと少し怒った声音で返事をする姿で、悠はこの珍客の正体が篠崎であると確信した。


「なんでゆみちーがここにいるの!?」


「悠、その子知り合い?」


真里に聞かれ、そうだよ、と頷く。


「ルームメイトの預かってる子なんだー。ごめん真里帰るね!」


ひょいとゆみちー、もとい篠崎を抱えると、すばやい動きで部室を後にする悠。


突然の出来事にただ呆然とするしかない手芸部員が、それぞれのことに専念できるようになるまでには少々時間を要したという。

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