第2章 ジャリ研と女子中学生

010 第2章 ジャリ研と女子中学生

 栄町さかえまち樹衣菜・きーな瀬戸灰音せと・はいね、そして僕が通う『愛名あいめい高校』は、


『学校法人・愛名学園グループ』


 に属する高等学校のひとつである。

 そして『愛名学園グループ』には、僕たちが通う愛名高校とは別に、もうひとつ高等学校があった。


『愛名女子学園・高等部』


 共学である僕らの高校とは違って、こちらは完全な女子校である。

 また、ゆくゆくはその『愛名女子高等部』に、エスカレーター式に進学する少女たちが通っているのが、


『愛名女子学園・中等部』


 だった。

 こちらも完全な女子校だ。


 男女共学の『愛名高校』と、女子校である『愛名女子』の中等部と高等部。

 この三校は『学校法人・愛名学園グループ』の広大な敷地内に、隣接して校舎を構えている。



   * * *



『愛名女子中等部』の三階に設けられた進路指導室。

 今、僕とキーナは、そこにいる。


 女子であるキーナはともかく、男子である僕が女子中等部の校舎に入るなど、通常であれば難しい。

 だが現在の僕は、愛名高校の『ジャーナリズム研究会(通称・ジャリ研)』の一員として、正式な手続きを踏んだ後に、この場所にいるのであった。


 僕とキーナが、この進路指導室に到着したのは、放課後の午後四時二〇分のことだ。

 僕たち二人は、女子中学生に、とあるインタビューを行う目的でやって来たのだが、先方に指定された場所が、この進路指導室だったのである。


 部屋の壁面には、進路関係の本や資料がぎっしりと詰められた本棚が設置されていた。

 本棚の他に部屋にあるものは、三人掛けのソファーが二脚――。

 ソファーは向かい合わせに設置されており、間には木製の茶色いローテーブルが置かれている。


 インタビュー時の応接セットとして、このソファーやローテーブルが、充分に使用できそうだった。

 それで僕とキーナは、ひとまず安心したのものだ。


 部屋に着いてからしばらくすると、二人の少女がやって来る。

 どちらも女子中等部のセーラー服姿。

 本日のインタビュー相手である女子中学生四人組ガールズバンド『クレイジーペットボトル』のメンバーだ。

 彼女たちは、愛名女子中等部の『軽音楽部』に所属している。


 黒髪ロングのストレートがとても美しい『クレイジーペットボトル』の小柄なボーカルがソファーに、ぽすんっと腰を下ろす。

 それから彼女は、僕とキーナに向かって右手を軽くあげた。


「よお、あんたらが愛名高校のジャリ研さん? お兄さん、カッコいい手袋と首輪してんね」

「ええ、まあ……手袋も首輪も、もらいものなんですけどね」


 そう答えながら僕は、オープンフィンガーグローブをはめた右手で、首に巻いたチョーカーをいじる。

 このアイテムたちに注目が集まるのは、正直とても恥ずかしい。


「へえ、もらいものなんだ。お兄さん、いいものもらえてラッキーじゃん」


 そう言うとボーカルの少女は、どこか人懐ひとなつっこい笑顔を浮かべる。

 それから彼女は、さらに話を続けた。


「悪いな、ベースとドラムの奴がちょっと遅刻してっからよ、もう少し待っていてくれ」


 僕は首を横に振る。


「いえいえ。インタビューは、四時三〇分開始の予定ですので、まだ大丈夫です。遅刻じゃありませんから」

「そうかよ。しっかし、インタビューを受けるのなんて初体験だからよお、なんだか緊張しちまってて、へへへ」



「初体験……」



 黒髪をサイドテールにした童顔の少女が、突然そうつぶやいた。続いて彼女は、顔を真っ赤にする。

 ボーカルのすぐ隣で大人しく座っていたそのロリっ子は、『クレイジーペットボトル』でギターを担当している少女だ。


 ボーカルの少女は、黒髪のロングヘアーを揺らしながら右手でポリポリと頭を掻く。


「えっと……ジャリ研のお兄さん。インタビューの前に、うちのギターの子の特技を見せてやりたいんだけど……あんたの名字、なんつったっけ?」

印場いんばです」


 僕はそう答える。

 すると突然、ギターの少女が黒髪のサイドテールを弾ませながら立ち上がった。


「マクガフライ!? あんた、印場マクガフライでしょ!」


 あまりのことに僕は、「はっ……? マクガフライ!?」と首をかしげる。


 何言ってんだ、この子? マクガフライって誰だよ?

 このロリっ子、ちょっとヤバいクスリでもやってんのか?


 そんな心の声を抑えつけながら、僕は平静を保つ。


「えっ、印場マクガフライですか? いえいえ、わ、私は印場冬市郎いんば・とういちろうですけど……」

「たっはああっ! 畜生ちくしょうっ! 名前当て、ハズレたわああ……」


 ギター担当のロリっ子は、くやしそうにうつむくと身震いをはじめた。

 ボーカルは、そんなギター担当の震える肩を、優しく抱きしめながら言う。


「マクガフライさんよぉ。こいつの特技は、人の下の名前を当てることだったんだわ」

「そうなんですか……」

「でも今日はハズレちまったみたいだな。カッコいいところを見せたかったんだが、すまねえな、マクガフライさん。まあ、記事にはしないでくれよ。あははっ」


 だから僕はマクガフライじゃないんですけどぉ……。

 そう思いながら僕は、「あははっ……」と苦笑いを浮かべることしか出来なかった。


 一方でキーナは、この珍妙なやりとりには巻き込まれまい、と完全にその場の空気になることを決め込んだ様子である。

 彼女はポニーテールをピクリとも動かさずに沈黙を守り続けていた。


 その後も僕は、二人の女子中学生たちと、『クレイジーペットボトル』のバンド名に恥じない、どこか狂ったようなやり取りを続けていく。

 やがて、残りのバンドメンバーの二人がやって来た。


 写真担当のキーナは、女子中学生たちに向かってデジタルカメラを構える。

 インタビュアーを務める僕は、ボイスレコーダーの準備をした。


 そして女子中学生四人組ガールズバンド『クレイジーペットボトル』のインタビューが開始されたのである。

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