103 姉『一穂』と妹『千穂』

 キーナが「おおっ!」と声を上げながら、両手をパチンと打ち鳴らした。


「うすうす似ているとは思っていたッスよ。けれどまさか、お二人は姉妹だったッスか」


 ヴァンピール団長が元気よく笑う。


「わははははっ! ああ、その通り。余が姉の『喜多山きたやまヴィヴィアンヌ一穂かずほ』だ」


 ――ヴィヴィアンヌ。

 妹の方は確か、ピエレットだったな。


「本名だぞ! 父親はこの国の男だが、母親は『外国の吸血鬼』なのだ。わははははっ!」


 それから団長は、僕とキーナに生徒手帳を見せてくれた。

『名前に関して嘘をついていない』という団長なりのアピールなのだろう。

 確かにそこには、


喜多山きたやま・ヴィヴィアンヌ・一穂かずほ


 と印字されていた。


「マア、母親ガ『吸血鬼』ッテ部分ハ――」と右足が言った。

「アア。真ッ赤ナ嘘ダロウ」と左足が続ける。


 足の裏たちの言う通りだ。

 名前に関しては本当なのだろうが、『母親が吸血鬼』という部分は信じられない。


 とにかく、先ほどピエロも来客用の玄関で、窓口の女性に生徒手帳を見せながら名乗っていた。

 どうやらこの二人は、姉妹そろって似たような行動をとるようだ。


「ふむふむ。お姉さんが『ヴィヴィアンヌ・一穂』さんで、妹さんが『ピエレット・千穂』さんなんスね」


 情報を一度整理するかのように、キーナがそうつぶやいた。


「『一穂』ト『千穂』カ」と右足が言った。

「『一』ガ姉デ、『千』ガ妹」と左足が続ける。


 足の裏たちがそう言い終わったところで突然、ライオン女が大声でしゃべりはじめた。


「ガオガオっ! 実は、このクマ女と私も姉妹なんだぜ。ガオガオっ!」


 すぐにクマ女が否定する。


「どうしてここで、そんな意味のない嘘をつくんだ」

「すまん。嘘だ。ガオガオっ!」


 嘘つきライオンは、たてがみのような髪を撫でながら苦笑いを浮かべた。

 どうやら本当に嘘のようである。


 ライオンよ……。

 本当にどうして今、そんな意味のない嘘をついた?


 ライオンに対して僕が少しイラッとしていると、今度はチケットもぎりが、帽子からチョロリと垂らした前髪を指でいじりながら会話に参加してきた。


「モギモギ……私には弟がいるぞモギモギ」


 いや……。

 別に聞いていないし……。

 今、その情報いりますか?


「わははははっ! 余には妹がいるし、母親は外国の吸血鬼だぞ」


 続いて団長がそう口にしたのだが、それはさっき聞いた……。

 なんでこのタイミングで、もう一度同じことを言うのか?


「ガオガオっ! 私には弟も妹もいないし、母親は外国の吸血鬼じゃないぞ。ガオガオっ!」


 ライオンが再び会話に参加してきたのだが、なんのアピールだ?

 お前はなんか……いいかげんちょっと黙っていろ……。


 足の裏たちでさえ、あきれたような調子でこう言う。


「コノバンド……」と右足がつぶやいた。

「自分ノアピールヲ、シタイ人間ダラケカ?」と左足が続ける。


 するとピエロが、そのリーダーシップを発揮して、荒れた現場を一度落ち着かせようと思ってくれたようだ。

 金髪セミロングの頭をポリポリと掻いてから、彼女はこう言った。


「ピエピエ。先輩方、今日はお集まりいただきありがとうございますピエ。今回のインタビューの趣旨しゅしは、ご理解していただいていると思いますピエが――」


 団長が元気よく笑いながら、ピエロの話を途中でさえぎる。


「わははははっ! 大丈夫だ、余はすべて理解しているぞ」

「ピエ」

「中等部の文化祭でバンドフェスを開催し、打ち上げで『バーベキュー大会』を行うのだろ?」


 んっ?

 バーベキュー大会?


「わははははっ! そのバーベキュー大会の『お肉の買い出し』――それを、余のバンドメンバーたちに付き合ってほしいとか? 確かそんな話であったな、わははははっ!」


 いや……。

 全然違いますけど……。


「わははははっ! バーベキュー大会が一番盛り上がるお肉を、余のバンドメンバーたちが選べばよいのだろ? ふふっ、面白い。その役目、よろこんで余のバンドが引き受けようではないかっ!」


 だから、なんだよバーベキュー大会って……。

 初耳だし、呼ばれていないぞ!?

 僕やキーナも、ちゃんと呼んでもらえるのか?

 それとも部外者だから、やはり参加人数にカウントされていないのか?


「わははははっ! だから、ピエロよ。今日のインタビューは『お肉』と『ロック』について、思う存分語ればよいのだろう? わかっているぞ。余のバンドメンバーは美食家ぞろいであるからなっ!」


 とにかく、どこかで情報が完全にねじれているようだった……。

 それと……。

 この姉は自分の妹のことを『ピエロ』と呼ぶのか……。


「ピエピエ。団長、どうやら大きな誤解があるようだピエ」


 ピエロのその言葉を聞いて、足の裏たちがざわつく。


「妹ノ方ハ、姉ノコトヲ『団長』ト呼ブンダナ……」と右足がつぶやいた。

「家ニ帰ッタ後デモ、ソウナンダロウカ……?」と左足は疑問に思ったようだ。


 確かにこの二人は、家に帰ってから親の前でも『ピエロ』『団長』と姉妹で呼び合っているのだろうか?

 少し気になったが、そんなどうでもいいことを僕が考えていると、ピエロがねじれた話を修正しにかかる。


「ピエピエ。団長、もう一度最初から今日のインタビューの目的について説明させてもらうピエよ」


 そしてピエロが、今回のインタビューの趣旨を丁寧に説明しはじめた。

 僕やキーナが少しも補足ほそくする必要のない上手な説明だ。本当に優秀なピエロである。


 やがて、サバンナのライオンや、冬眠明けのクマでも理解出来そうな、わかりやすい説明が終わった。

 バンドメンバーが今回のインタビューの趣旨を理解したところで、僕はボイスレコーダーを用意し、写真担当のキーナが撮影の準備をはじめる。


 そうして『ヴァンピール・モンスターサーカス』のインタビューがはじまったのだった。

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