104 『ヴァンピール・M・C』インタビュー①

クマ女(以下 ク) 限界を感じているんだ……。


――(インタビュアー) とおっしゃいますと?


ク このバンドのかたに、限界を感じているんだよ……。


ライオン女(以下 ラ) ガオガオっ! クマちゃんよぉ、しゃべるときはちゃんと『クマクマ』って言えよな! ガオガオっ!


ク …………。

―― …………。


ク なあ、インタビュアーさん。こういうことだよ……。

 私の言いたいこと、なんとなくわかるだろ?


―― 『クマクマ』言うのがキツい?


ク ああ……さすがにな……。

 私、もう高校二年生だし……。


ラ ガオガオっ! 私だって高校二年生だぜっ!

 でもな、高校二年生のライオンがこの学校にいてもいいと思うんだ、ガオガオっ!


ク まったく意味がわからないぜ……。

 高校二年生のライオンってなんだよ……微分びぶん積分せきぶん三角関数さんかくかんすうの授業を受けるライオンがいるとでも?


―― そのぉ……、先ほどからお聞きしていますと、『クマ女』さんと『ライオン女』さんとでは、バンド内のキャラクターを演じるにあたって、ずいぶんと温度差があるようなのですが?


ラ いや……あんた、『キャラクターを演じる』とか言うなよ。

 私は生まれてからずっとライオン女だぜ? ガオガオっ!


―― 失礼しました。ライオン女さんは、でライオン女さんなんですね。


ラ ああ、そうだ。お父さんライオン男が、草食動物をバリバリ食う音を子守唄こもりうた代わりに聞きながら私は育ったんだぜ、ガオガオっ!


―― お父さんライオン男?


ラ お父さんライオン男は、捕らえた動物をもう骨ごとバリバリ食ってやがったな、ガオガオっ!


―― それは、かにの食べ放題に連れて行ったら、面白そうなお父さんですね。


ラ そうだな。まあ、親父が動物を骨ごとくだくことで生まれるあの荒々しいメロディー。今思えば、あれが私のララバイ(子守唄)だったんだ。

 それで私は、ワイルドな親父にすっかり似ちまったのさ、ガオガオっ!


ク そのわりには、娘のお前はフライドチキンの軟骨なんこつを残すじゃねえか……。


ラ ああ? なんだ、てめえは? フライドチキンのお母さんか?


ク どういうことだよ?


―― この文脈でフライドチキンのお母さんって、どういうことなんですかね?


ク わからねえ。とにかく、インタビュアーさん、ライオン女の今の話はすべて嘘だぜ。


―― 嘘?


ク ああ。こいつが『ガオガオ』言い出したのは、中学二年の頃からだ。

 幼馴染おさななじみの私が言うんだから間違いない。


ラ てめえ……。


ク 中学一年の頃は、こいつは『ガオガオ』なんてひと言も口にしていなかった。

 こいつは春先から夏の終わりにかけて、『ざるそばを食べる人』のモノマネをマスターすることに夢中だったよ。


―― その話、詳しく聞かせていただいても?


ラ おいおい、インタビュアーさん……『ざるそばを食べる人』の話は、それ以上広げなくてもいいぜ……。

 あんたにとってはどうせ、ネギもワサビも物足りねえつまらない話になるだけだ、ガオガオっ!


―― そうですか、残念です。

 それでそのぉ、とにかく、お二人は幼馴染みだったんですね?


ク ああ。小学校に入る前からのくさえんだ。


ラ こいつと私は幼い頃、将来は二人でいっしょに『可愛らしい魔法少女になれる』って心の底から信じていたんだぜ? ガオガオッ!


―― お二人で魔法少女に?


ラ 笑えるだろ? 思春期には二人とも、タワーマンションみたいな体型のこんなデカい女になるとも知らずにな。それなのに幼い頃は、二人で魔法少女になるのが夢だったんだ、ガオガオっ!


ク くっ……今じゃ、この女子校のツインタワーみたいになっちまったからな……二人そろって魔法少女になるどころじゃねえぜ……。


ラ 女子校の廊下を二人そろって横並びで歩いていたら『見て見て、向こうから新宿都庁が歩いてくるわ』ってヒソヒソ言われちまうくらいさ、ガオガオっ!


―― なるほど。


ク ……まあ、そんな話はいいぜ。

 とにかく私はな、もう卒業したいんだよ。

『ガオガオ』からも『クマクマ』からもな……。


ラ ああ? 卒業って……どういうことだよ……。

 クマ女をやめて、このバンドから卒業するってことか!? ガオガオっ!


ク 勘違いするんじゃねえよ、このたてがみ女。

 お前はフライドチキンのお母さんか?

 別に私は、このバンドをやめたいわけじゃねえ……。


―― そのぉ……ちょっとよろしいでしょうか?

 なんだか、お二人の話の雲行きが怪しいのですが……。

 可能であればここらで一度、話の軌道修正きどうしゅうせいをしませんか?


ラ ああ、そうだな。

 この雲行きじゃあ、この先クマ公の汚ねぇ血の雨が、この室内に降るだろうからな、ガオガオっ!


ク まあ、今日のインタビューの趣旨しゅしからは、ずいぶんと話がズレちまったしな。

 すまねえな、インタビューさん。軌道修正してくれ。


―― ありがとうございます。

 それでは、ずっとお二人のお話ばかりでしたし、そろそろ他の二人のメンバーのお話も、お聞きしたいのですが……。


ヴァンピール団長(以下 団) わははははっ! いやいや、インタビュアーさん。ずっと黙っていてすまなかった。

 良い機会だと思ってな。その二人の話をとことん聞いてみようと思っていたんだ。わははははっ!


―― ヴァンピール団長さんは、このバンドのリーダーなんですよね?


団 ああ、そうだ。のバンドがこれから進むべき未来を、メンバー二人のぶつかり合いを目にしながら、ずっと考えていたんだ。わははははっ!


―― これから進むべき未来……ですか?


団 余のバンド『ヴァンピール・モンスター・サーカス』は今、大きな転換期てんかんきを迎えているのだよ。わははははっ!


―― 転換期?


団 このバンドの現在のスタイルが出来上がったのは中学二年の頃だ。

 あれから三年経ち、メンバーたちは心も身体も成長している。

 それと共に、大なり小なりバンド自体も変化が必要なのかもしれないな。わははははっ!


―― 現在、中等部の軽音楽部内で『ヴァンピール・モンスター・サーカス』は、カリスマ的なバンドとして認識されていますよね?


団 本当にありがたいことだな。わははははっ!


―― 周囲からの評価は素晴らしいようですが、それでもやはり変化していかなくてはいけない?


団 わははははっ! やはり変化は必要だ。

 余のような永遠の時を生きることができる吸血鬼といえども、時代に合わせた変化は必要なのだと思うぞ。


チケットもぎり(以下 も) も……モギモギ……。団長の言う通りだモギモギ。


―― と言いますと?


も も……モギモギ。たとえば私たちは、人生のあらゆる場面で『チケットの半券』をもぎられるんだ。


―― チケットの半券をもぎられる?


も そうだ、モギモギ。

 人生のチケットの半券は、中学生から高校生になるときだって、もぎられる。

 高校一年生から二年生になるときだって、やはりもぎられるんだよ……モギモギ。


―― よくわかりませんが、『ヴァンピール・モンスター・サーカス』も、チケットの半券をもぎられるときが来たってことですか?


も ああ、そうだ。

 このバンドのメンバーだって皆、チケットの半券をもぎられるときが来たことを、薄々感じているんだよ……モギモギ。

 なあ、みんな。そうだよな?


団 …………!?

ラ …………!?

ク …………!?


も モギッ!?

 ど、どうした? みんな!?


―― …………!?


も い、インタビュアーよ? 頼むからお前だけは黙らないでくれ……。

 なんか言ってくれないか?

 それともお前は私に、どこかをもぎられたいのか? ……モギモギ。


―― えっと……。

 そのぉ……困りましたねえ。

 じゃあ……たとえば、人生のチケットの半券は、いったい誰にもぎられるんですか?


も モギッ!?

 そっ……それはまあ、『時代という名のチケットもぎりの代理人』なんかに、もぎられるんだなモギモギ。


―― 時代という名の……チケットもぎりの代理人?


団 …………!?

ラ …………!?

ク …………!?


も もういい……。殺せ……。

 私の命の半券をここで、もぎっていってくれ……。


団 わははははっ! 殺さない!

 吸血鬼である余が、今からお前に永遠の命を与えてやろう(団長がチケットもぎりの首筋くびすじに噛みつく)。


も (うつろな目で)ここは地獄だな……モギモギ。


ク どうだい、インタビュアーさん。もぎりが何を言っているのか、わからなかっただろ?


―― はい。


ク ふふっ。あんた、正直だね。

 でも、私らもいつもそうなんだ。


―― そうなんですか? もぎりさんはいつも何を言っているかわからない?


ク ああ。ランチタイムなんかに、こんな理解不能な話をいつも聞かされていると、めしの味がよくわからなくなるんだよな。


ラ ガオガオっ! 私も昼休みに学食で『動物の肉』を食べているんだけどよぉ。もぎりが難しい話をしだすと、肉が上手く飲み込めなくなるぜっ!


団 わははははっ! ライオン女よ! 吸血鬼である余が、今からお前に永遠の命を与えてやろう!


ラ この話の流れで、なんでだよ!? ガオガオっ!?


団 カプリっ! (団長がライオン女の首筋に噛みつく)


―― 吸血鬼の犠牲者ぎせいしゃが二人に増えてしまいました。

 さて。ここらで本当に一度、話の軌道修正をしたいのですが?


団 わははははっ! それもそうだ。今度こそ本当に軌道修正をしてくれ。

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