054 異能を持っていることの証明

「なっ!?」


 六つのアイメイボックスを目にしながら、灰音はそんな声を上げる。

 黒々とした両目を大きく見開き、彼女はとても驚いた様子だった。座っている椅子がカタカタと大きな音を立てる。


 もし椅子に座っていなければ、隣町くらいまで後ずさりしていきそうなほどの灰音の反応――。

 いや、さすがにそれは大袈裟だが、彼女はそれほど驚愕きょうがくしているといった表情を浮かべていた。


 そんな彼女の様子に僕は、「んっ?」と首をかしげる。

 銀髪の少女は、OFGを装着した左手を口に当てながら、やや震える声で言った。


「冬市郎よ……まさか、たった一日で六つも集めたのか!?」


 問われた僕は一瞬迷ったのだが、「ま、まあね……」と嘘をついた。


 本当はキーナが集めたものである。

 だが、尋常ではない灰音のこの反応を目にして、『ここでキーナの名前を出すのはなんとなくやめておこう』と判断したのだ。


 銀髪の少女はテーブルの小箱をひとつ手に取ると、町の古美術商が真贋しんがんでも確かめているかのように、様々な角度に動かして念入りに眺めながら話を続ける。


「しかしまさか、いきなり六つも集めてくるとは……。さすがは時雨風月の生まれ変わりといったところか……。正直、わらわはかなり驚いたぞ」


 その言葉は嘘ではないぞと言わんばかりに、とにかく灰音はしきりにまばたきを繰り返した。

 長く美しいまつ毛がパチパチと、小箱と彼女の間に漂う空気を何度も弾いた。


 僕もテーブルの上の小箱をひとつ手に取る。


「灰音、そんなに驚くことなの?」

「冬市郎よ。わらわは今日まで、えて説明をしてこなかったことがある」

「えっ?」

「実はこの箱はのぉ、異能を持つ者以外は、けっして見つけることの出来ぬものなのだ」

「はぁっ?」


 と、僕は顔をひきつらせた。


 ――異能を持つ者しか見つけられない箱だって?

 じゃあ、これを見つけたキーナは、異能を持つ者?


 心の中でそう思うと、僕は「あはは……」と声を出して笑った。


 何を言っているのやら?

 確かにキーナは、言葉遣いは少し普通じゃない。けれど、『異能を持つ者』って感じではないだろ?


 そう言いかけるが、もちろん僕は声に出さない。

 箱をテーブルに戻して、「コホン」と一度咳払いをすると灰音に尋ねた。


「まあ、とにかく灰音。この箱はどうすればいいんだ? 灰音が持って帰る?」


 銀髪の少女は首を横に振った。


「いや、これはこのまま冬市郎が持っておれ」

「僕が?」

「ふむ。まだ全部は集まっておらんようだしな。散らばった小箱は全部集めてこそ、はじめて意味があるからのぉ」

「えっ? 全部集める?」

「いやまあ、全部集めるかどうかは、正直おぬしの自由なのだがな――」


 灰音は手にした小箱を、コトンっとテーブルに戻すと話を続ける。


「ふむ。わらわとしては、とりあえず冬市郎に箱をひとつ見つけてもらうだけでよかったのだ」

「ひとつだけでよかったのか?」

「うむ。前世の記憶をすっかり失っておるおぬしが、その異能までも失ってしまっているのかどうか――。わらわはそれを確認したいと思っておっただけだからのぉ」


 僕は小さく首をかたむける。


「とりあえず、これをひとつ見つけることが出来たら、僕が異能を持っているってことの証明になるのか? だから灰音は、僕にこの小箱を探させたってこと?」


 灰音はこくりとうなずく。


「ふむ。まあ、そういうことだ。試すような真似をしてすまなかった。しかしまあ、箱を見つけられたということは、おぬしは異能の持ち主ということ――」


 灰音は苦笑いを浮かべると、話の先を口にする。


「それにしてもまさか、いきなり六つも見つけてくるとはのぉ。たった一日で半分見つけてしまうとは……。どうやらおぬしの異能は、こちらの世界でも絶好調のようだ。正直、わらわは嬉しいぞ」

「んっ、半分? 六個で半分ってことは……。この箱は全部で――」

「うむ、冬市郎よ。箱は全部で十二個ある」


 僕は小声で「十二個……」と繰り返す。

 そして、テーブルの上に並んだオレンジ色の小箱たちを眺めた。

 灰音が、小さくうなずく。


「ふむ。ちなみに冬市郎よ。以前、わらわもこの小箱を十二個すべて集めたのだが、そのときに費やした時間がどのくらいかわかるか?」


 問われた僕は、黙ったまま首を横に振る。

 灰音は「こほん」と軽く咳払いをしてから答えを口にする。


「おおよそ一年だ」

「えっ! 一年!?」

「ふむ。それをおぬしは、たったの一日で半分も集めてきたのだ。わらわの驚きも理解できるであろう?」


 僕は、ごくりと唾を飲み込んだ。

 灰音は一年かけて、この箱を十二個集めた。

 けれどキーナは……。

 たったの一日で、その半分の六個も集めたのだ!


 僕は思う――。

 よくよく考えてみれば……。

 広い校内のあちらこちらに散らばったこの小さな箱を、あれだけの短時間で六つも見つけてくるなんて!?

 それって、普通の人間の仕業しわざとは思えないのではないか?


 足の裏たちも驚きを声に出す。


「オイオイ……」と右足の裏が言った。

「『キーナ』ッテ、イッタイ何者ナンダ……!?」と左足の裏が続ける。


 足の裏たちの声を耳にしながら、僕は口をあんぐりと開けていた。

 筋肉を弛緩しかんさせる注射でも打たれたかのように、僕は自分の身体をだらりとさせると椅子の背もたれに預ける。


 僕の唯一の親友。

 それが突然、謎の人物へと変貌へんぼうしたこの瞬間。


 はじめて足を踏み入れたであろう女子中等部の校舎――。

 その不慣れな場所で、どこに隠されているのかもわからない小さな箱を、簡単に六つも見つけてきた不思議な少女。


 しかし、僕の心の奥底でささやく声がする。


 まてまて――。

 色々と判断するには、まだまだ情報が少なすぎるだろ?

 とにかく今は、灰音から話の続きを聞くんだ。


 僕は椅子に預けていた身体を起こした。

 そして落ち着くために、かなり長めに「ふー」と息を吐く。

 それから銀髪の少女に尋ねる。


「そ、それで、灰音……ちなみにこの箱を全部集めると、一体どうなるんだ? 何が起きる?」


 灰音は、その大きな胸の下で両腕を組む。

 彼女は両目を閉じ、一度ゆっくりうなずくと、僕に向かって箱の秘密を話しはじめるのだった。

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