011 『クレイジーペットボトル』インタビュー
ボーカル(以下 Vo) そもそも、アタイらが言いたいのは、こんなクソ田舎でも歌は歌えるってこと。都会のロックだけが、歌じゃないんだぜ?
ドラム(以下 Dr) そうだぜ。
ギター(以下 G) あんなのは、ほとんどクソったれだ。
――(インタビュアー) それでは都会のロックは、ほとんどがクソったれだと?
ベース(以下 B) 違うな。
G 違う。
Vo 違うね。
Dr そうだぜ。違うぜ。
B 違うな。そうじゃないんだ。
都会のロックだけが、ロックだという考え方がクソったれだってことだ。
そんな考えは、このまま進路指導室のテーブルの下に置いていってしまえばいい。
Dr そうだぜ。
G うーん、ポルノ・スター☆
―― ポルノ・スターって? この話の流れでポルノ・スターってどういうこと?
Vo この子の発言は気にしないでくれ。ちょっと衝動的なんだよ。
B 彼女のことは気にするな。
この子は以前、ライブで気持ちよくフルートを吹いた後、右膝を使って客前でそのフルートを真っ二つに折っちまったんだよ。
あまりにも気持ち良かったからね、割り
まったく……こつこつとお年玉を貯めて買ったフルートだったのによぉ……。
Vo あれから、この子はすごく反省してるんだ。楽器は大切に扱わなくちゃって……。
まあ、どんな出来事にも教訓ってやつはあるね。
―― あの、大変お尋ねし辛いのですが、彼女はそのぉ……お薬を? いわゆるドラッグ?
B まさか。彼女が持ち歩いているのは生理痛の薬ぐらいだぜ? 冗談キツイな、あんた。
―― 薬じゃなければ、独自の自己催眠の開発に成功しているとか? 頭のリミッターが外れてしまう系の悪質なやつ……?
B おいおい、そんなことはないって。
24世紀まで残る『新しいコックリさん』的なもんは、開発に成功したって吹いてた時期もあったけどよ、頭のリミッターはまだ外したことはないはずさ。
Dr そうだぜ。
Vo まあ、彼女の発言はひとまず置いておいて、要するにこのバンドが言いたいことは、結局160キロのスピードボールはアタイらには投げられっこないし、都会のロックのようにスマートにも出来ない。
泥臭いだけなんだよアタイらは。
G そんな風に言うなよ、スイート・ハート。
―― スイート・ハート?
Vo 泥臭いから良いんだよ、アタイらの音楽は。あんなに泥臭くて美しいものは他にないよ。まあ、アタイのママン以外はね、ククク。
B だから、その泥臭いままでウチらはいつまでもやっていこうと思うんだ。
このコンセプトは普段いちいちバンド内で説明はしないんだけどな。
Dr そうだぜ。
Vo いちいちバンド内で説明しない話っていやあ、似たような話で『いちいちバンド内で
―― できればお願いします。
Vo そうかい。求められてんなら話すけど。
そもそもアタイはさあ、中学一年の初め頃は、まあそりゃ、手の付けられないフタ付きのワルだったんだ。
Dr そうだぜ。フタ付きのワルだったんだぜ。
―― それって、ひょっとして『
B 違うな。
G 違う。
Vo 違うぞ。
Dr そうだぜ。違うぜ。
―― 全力で否定されてしまったのですが……。
B 違うんだ。フタ付きでいいんだよ。
なぜならこの子は、ペットボトルのフタを集めているワルだったからさ。
Dr そうだぜ。
B だからフタ付きのワルでいいってわけさ。
―― そうですか……。
Dr そうだぜ。
―― それで、またどうしてペットボトルのフタなんかを集めていたんですか?
Vo ああ、それはなあ……どうしてだろうな?
G 彼女は自分でもよくわかっていないんだ、マクガフライよ。
―― ああ、えーっと……先ほども申しましたが、私はマクガフライではないですよ……。
G そうなのか?
―― はい。
Dr そうだぜ。
―― えっと……それで、とにかくそのフタ付きのワルが、メンバー三人と出会って、こうして四人組ガールズバンド『クレイジーペットボトル』を結成したわけですよね。
B 違うな。
Vo ああ、違う。
G 違う。
Dr そうだぜ。違うぜ。
B 違うんだよ。そうじゃないんだ。
この子がウチら三人と出会ったんじゃなくて、ウチら三人が、この子と出会ったんだよ。
―― ああ……えーっと、まあ、それはどちらでも同じことのような気がするんですが……。
とにかく四人でバンドを結成したということですね。
Dr そうだぜ。
―― やはり当面の目標は、今年はじめて中等部の文化祭で開催される『バンドフェス』で優勝を狙うこと?
G それは違う。
Vo ああ、違うぜ。アタイらの当面の目標は、そうだなあ……なんだろうな?
B 次の定期テストで全員、赤点をなくすことが当面の目標だ。
G そうだ。
Dr そうだぜ。
Vo そうだった……アタイら、正直やばいんだよ。
―― ああ、いえ……そういうのじゃなくて、バンドとしての目標を知りたいのですが。
B いや、だからさあ、次のテストで成績が悪いと、ギターのこいつがバンドを辞めさせられちゃうんだ。
なあ、お前。母親とそういう約束をしちゃったんだよな?
あの、いつも口から
G ああ、そうだ……。お母さんとそう約束した。みんな、すまん……。
Dr そうだぜ。
Vo まあ、それでさあ、成績悪いのはこいつだけじゃないから、がんばるときは四人でいっしょにがんばろうってことで……。
次のテストで誰か一人でも赤点をいただいちまったら、バンドは解散なんだ。
G わたしきっかけで、このバンドは現在とても大変なことになっているんだ。ジャリ研ボーイよ。
―― ジャリ研ボーイ? ……ええっと、では無事にテストを終えて、バンドも存続ということになったら、次はやはり、初開催される文化祭のバンドフェスで優勝を狙いますよね?
B んあ? まあ、そんときは狙ってやってもいいかな?
Vo そうだな。
G ああ。
Dr そうだぜ。
―― そこで、今年の中等部の文化祭は、一部では『ガールズバンド戦国時代』なんてことを言われていますが、そのことについていかがですか?
B んあ? 戦国時代? そんな歴史の話が、どうしてウチらのインタビューと関係するんだ? ああ!?
Vo 確かに、アタイらはある意味では『武士的な要素』を持ち合わせてはいるが……。
Dr そうだぜ。
G わたしは武士よりも忍者に憧れているな。小学生の時、遠足で行った忍者村で棒手裏剣も買ったしよぉ。
―― えっ!? 十字手裏剣じゃなくて、棒手裏剣を?
G ああ、うん。わたしが通っていた小学校は共学でな、十字手裏剣は周りの男子がみんな買っていて、なんだかミーハーな感じがしたんだよ。だから棒手裏剣にしといたんだ……渋いだろ?
―― ええ。私もそれは最高に渋いチョイスだと思います。
B でも、この子さあ、家に帰ってから棒手裏剣を握りしめて『お父ちゃんが勤務先の工場で使ってる工具みたいじゃん』って言って泣いたんだぜ、あははっ! 自分でその棒手裏剣を選んで買ったくせによぉ。
Dr そうだぜ。
G ふふっ。確かにそんなこともあった。
けど、図工の時間に棒手裏剣で
男子にあんなにウケたのは初めての体験だったんだ。
そう、初体験……。
B 何、顔を赤くしてんだよ!
メンバー全員 (爆笑)
―― それでは、そろそろまとめに入りたいのですが。もし、なにか告知のようなものがありましたらどうぞ。
Vo ああ、そうだな。文化祭は十月だからまだ気の早い話だけど、アタイら、定期テストを無事に終えられたらよぉ、文化祭のバンドフェスで新曲を披露しようって考えているんだ。
B 『冷凍マヨネーズ』って
ギターのこの子が、間違えてマヨネーズを冷凍庫に入れちまって、母親からぶつぶつ言われ続けたっていう体験談を、無い知恵を
G 夜中のテレビ通販で昔買わされたダイエット器具の上で、発情した飼い猫が白身魚と隣の晩御飯を眺めながら踊り狂う――みたいな最高に純情な恋のナンバーだ。
ここまで来ると、もはや哲学さ。発情した猫のフィロソフィー。
Dr そうだぜ。
G 今までお前たちが生きてきたブドウ畑やミカン畑の中じゃ目にできなかった、とんでもねえピーチボンバーになるはずさ。
もちろん、この子のドラムさばきも楽しみにしてろよな! 叩かれて喜ぶ校内のトロピカルフルーツポンチたち!
Dr そうだぜ。
―― 要約すると、ギター担当の方が、マヨネーズを冷凍庫に入れてしまって母親とケンカした。そして、その体験を曲にして文化祭で発表するってことでいいですか?
G ああ、そうだ。理解が早いじゃないか、ご両親の教育のたまものか?
Vo なあ、あんた知っているかい? マヨネーズってやつはよぉ、冷凍しちまうと油分と他の成分が分離して、とんでもねえことになっちまうんだ!
Dr そうだぜ。
Vo 機会があったら、凍ったマヨネーズが解凍されるとどうなるか、調べてみたらいい。
解凍されたマヨネーズは、音楽性の違いで解散するバンドなんかよりも、もっと解散しちまうんだぜ?
Dr そうだぜ。冷凍で、解凍で、解散だぜ!
B だが幸い、この子の家のマヨネーズは、凍ってしまう前に、無事に冷凍庫から救い出されたわけなんだが。
Dr そうだぜ。無事に救い出されたわけだぜ。ふぅー♪
G ……ああ、思い出すね。
普段よりもずっと冷えたマヨネーズが、家族の手によって食卓の上をグルグルまわされていた日のことを……。
あれはロックだった。
あの日、あの食卓には確かにロックンロールが存在していたんだ。
Vo まあ、とにかく。今まで誰も耳にしたことのないような、とんでもねえマヨネーズソングになることは
あと、とりあえず定期テスト対策に力を貸してくれるって奴がいたらさ、アタイらに声をかけてくれよなっ! 赤点ひとつでバンド解散なんだよ。
そういうわけで誰か、本当によろしくお願いします。
B おい、それぐらいにしとけ。
見ろよ、この子、定期テストのプレッシャーで震えだしちまったぞ。
G ぶるぶるぶる……。なんだか、もう寒いぜ。
身体が、凍らされたマヨネーズみてぇに分離しそうだ。
Vo いけない……。もう、これ以上のインタビューは危険だ。
B インタビューは中止だ。すまねぇ、中止してくれ! 後のことはウチらのライブを観てくれたら全部わかるから。
―― では最後に、これ以上インタビューを続けると、どうなっちゃうんですか?
B こ、こ、この子が、昼飯で食ったキャラ弁とコーヒーゼリーを全部
Vo あんたらが今まで見たことないぐらい派手にな。
派手すぎて、きっと学園の神話になっちまう。
―― 『クレイジーペットボトル』のみなさん、本日はありがとうございました。
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