『クリスティニア』が『桐花』でいるために……再び-2

 何を吠えてしまったんだ俺は。


 あれだけ会わせろと息巻いてから気付いた。

 俺、コミュ障だった。

 教頭先生は熊みたいに体がでかい優しそうな人ってことしか分からないのに、なんで遭うことを約束させてしまったんだ。


 暑い日差しの中、ふらふらと自治会室へと入る。

 古い上に百ボルト電源用なせいか、冷却能力がイマイチだったスポット冷房機は二台に増えてちょっと寒いくらいだった。


「依ちゃんはなんて?」


 紙束をまとめる嗣乃が顔を上げた。


「んー、大したことじゃないよ」


 陽太郎がぎっとこちらを睨んだ。

 ちょっとわざとらしい「んー」だったが、陽太郎が反応してくれた。


「ちょっといい?」

「良くねえよ。仕事しに来てんのに」


 立ち上がった陽太郎に自治会ポロシャツの後ろ襟を掴まれて引き摺られていく。

 察しが良くて助かるよ。


「あーれー」


 パソコンと向き合っていた桐花が驚いた目で見ていたので、棒読みで茶化しておいた。


「さっき向井の名前の話されたんだろ? 先生はなんて言ってたの?」

「な、なんで知ってんだよ?」

「さっき生活指導の先生から留学生に日本人名プレゼントしようって話があったんだけど、向井のことは触れられてなかったんだよ!」


 くそ、桐花にも伝わっちまったか。


「そうだよ。桐花以外はいいってさ」

「なんだよそれ!?」


 すぐキレるなよ。

 女の子のために怒るイケメンなんてポイント高過ぎるぞ。


「なんでも何もないよ。桐花は正当な意味で日本人だぞ。小中と公立行ってんだぞ? あの名前のままで通ってたんだぞ?」


 やっぱり俺は役者に向かないな。

 不自然な言葉運びになってしまう。


「つっき、それで引き下がった訳じゃないよね?」

「んー……まぁ、どうにもならなかったし」

「向井にとって名前は重要だって言ってたのは月人だろ! 誰が判断したんだよ!」


 久しぶりに月人と呼ばれたな。これはかなり怒ってるぞ。


「教頭だってさ」

「分かった。俺が話してくる!」


 ガタンとドアが開き、嗣乃が顔を出すや否や、陽太郎に襲いかかって羽交い締めにした。


「ストップ! 桐花は中にいて!」


 お、嗣乃がドアに耳を貼り付けて聞いていたな? 計画通り。


「よーはちょっと深呼吸。つっき、まさか依ちゃん頑張ったから許してあげるなんて言わないよね?」

「んな訳ねーだろ」


 お前らを焚きつけに来たんだからな。

 さて、どうしてやろうか。

 三人揃ったので善後策を練ろうとしたところで、全員の携帯が震えた。


「三兄弟ととーたは職員室隣の第一会議室に集合せよ……なんだこりゃ?」


 生徒自治会室のドアが開いて杜太が顔を出した。


「な、なんか呼び出し食らったんだけどぉー!?」

「とにかく行こう!」


 陽太郎が大股で歩き始めたので慌てて付いていく。

 後ろで杜太が自治会室のドアを開けた。


「す、すんませーん! 四人ちょっと抜けますー!」


 と宣言してから追い付いてきた。

 杜太のこういう気遣いは見習いたいな。

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