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 この国で一番、乗降者の多い駅。

 たくさんある改札口。そのうちの、一番人間が密集する改札口を出たところに、その人はいた。


 ファストファッションのパーカーにジーパンという、よく見かける服装。

 けれど奇妙なことに、身動きをすることもなく、気をつけの姿勢のまま、ただ改札機の方を向いて固まっていた。

 そしてその顔には、縁日で売っているようなアニメのキャラクターもののお面を被っていた。

 かなり接近するまで気付かなかったから、見た瞬間ギョッとした。

 けれどこの辺りには、よくふざけたことをしている人達がいるから、そういうのだろうと思って特に気にしなかった。

 それが朝10時のことだった。




 その日の21時頃。同じ駅の、同じ改札口に向かった。

 そこで見えた。見覚えのある、パーカーとジーパンを身に着けた、改札機を向いた後ろ姿。人形のように、直立不動の。

 またしても、ギョッとした。

 よく見かける服装だから、きっと違う人…… 何時間も同じところに、同じ姿勢でいるわけがない。

 自分にそう言い聞かせ、追い越してから、よせばいいのに振り向いて顔を見てしまった。

 やっぱり被せられていた、キャラクターもののお面。コミカルなはずのそのキャラの顔が、怖いくらいの無表情に見えた。

 足早に、その場を去った。周りの人達は、まるでその人の存在に気付いてすらいないように行き来していた。




 気にしないようにしようと思ったのに、家に帰ってからも頭の中はあの人のことでいっぱいだった。

 ただの変わった人なんだろう。あまり詮索するべきではないかもしれない。だけど……

 もやもやして仕方がなかった。


 そうだ、SNSで検索してみよう。他にも見かけた人がいて、情報を投稿していたりして。あるいは、ドッキリか何かの企画だったのかもしれないし。


 検索窓に「○○駅 お面」と打ち込み、虫眼鏡マークをタップした。


 現れた投稿はただひとつ。そこにはただ一言。

 「お前か」


 背後から首筋に、ふうう、と冷たい風が吹き付けた。

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