kill again

「待ってくれ! 私が何をしたって言うんだ!」

 もがれた四肢。腹部に深々と刺さる大量の刃物。必死の形相で訴える母親の脳天に力いっぱい斧を叩き込んでやった。




 翌日。

「誰なんだよあんた! こんなことしてタダで済むと……」

 腫れ上がった全身。倍以上に膨らんだ顔。憤怒の表情で怒鳴る母親に最後の一殴りをお見舞いしてやった。




 翌日。

「お願いです。やめてください。もう、もう……」

 全身余すところなくびしょ濡れ。水槽の水によるものか、涙によるものかなんて知ったこっちゃない。顔をぐちゃぐちゃに歪める母親の顔を、もう一度水に押し付けた。大きく身をよじらせた母親は、けれどそれきり動かなくなった。




「いつもありがとうございます」

 黒服の店員が恭しくこちらにお辞儀をしてきた。


「いやいや、こちらこそいつも楽しませてもらってるよ」

「明日もご利用なさいますか?」

「ああ、もちろん」

「まだまだ許せそうにありませんか、お母様を?」

 私は大きくうなずく。

「当たり前だろう」

 店員は破顔し、再び頭を下げた。

「人を許せないのは決しておかしいことではありませんよ。それでは明日までに生き返らせておきますので、また宜しくお願いいたします」




 憎い人間を殺したいと思う人はたくさんいるだろう。

 中にはこう思う者もいるはずだ。

「一度殺したくらいじゃ恨みを晴らすには足りない」と。


 現に私がそうだ。

 幼い頃から私に理不尽な扱いばかりしてきた母親を殺したい、一度だけでなく、何度でも殺してやりたいと願い続けていた。

 

 そんな時に、この店に出会った。

「その人、一度殺しただけで許せますか?」

 そのキャッチコピーの通り、恨みのある人間を何度も殺させてくれるのだ。

 殺害した憎い人間を生き返らせることによって。


 初めはもちろん信じ難かった。

 けれど、家でけんかをした拍子にうっかり殺害してしまった母親の遺体を渡した翌日、言われた通りに再び店に来て驚いた。

 鉄格子の中で震えていたのは、どこからどう見ても私が殺してしまったはずの母親だった。

 仕組みは全く不明だが、本当に生き返らせてくれたのだ。




 それからというもの、毎日ここに来ては母親を殺している。

 ありとあらゆる刃物や火器、拷問具などがあり、ありとあらゆる方法で何度も何度も母親を殺せている。


 生き返らせることはできるけれど、記憶はうまく引き継げない場合が多いそうだ。

 実際、母親は毎回なんとなく性格が異なっているように見える。強気なときもあれば、弱気なときもある。

 けれど、毎回共通していることがある。私に会うたびに「お前は誰だ」という趣旨の質問をしてくるのだ。二十年近く非人間的な仕打ちをして育ててきた我が子のことを忘れている。

 それが余計に私の怒りを掻き立てる。

 

 毎回毎回、母親はいい反応を見せながら死んでくれる。

 でも、まだ足りない。もっともっと、何度でも、母親を殺したい……

 料金がものすごく高くて、だんだん生活に困り始めてるけど、借金してでも続けるつもりだ。

 私はあいつにそれだけのことをされてきたんだ。だから私にはこうする権利があるんだ。

 また明日が、楽しみだ……


 私は顔がにやつきそうになるのをおさえ、店を去った。




 いやいや、呑気なもんですねえ。あのお客様。まさかあんなに簡単に「生き返り」を信じてしまうなんて。

 そんなわけないのにねえ。死んだ生物が蘇るなんて。もっとシンプルな方法に決まってるのにねえ。

 適当にその辺にいる人をさらってきて、全身をあの人のお母様そっくりに整形してるだけだってのにねえ。

 つまりあの方が殺してるのはお母様じゃなくて、何の罪もない無関係な方達なんですよねえ。

 殺すのに夢中で、そんなことにも気付かないんですねえ。私達はさらって整形してるだけ、勝手に殺してるのはあの方なので、私達は悪くありませんけど。

 ま、そんな単純なおバカさんのおかげで稼がせてもらってるんだから文句は言っちゃいけないんですけどねえ。



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