地獄について

 この前見た夢の話。


「人間って昔から、色々なタイプの地獄を想像してるよね」


 静かな暗闇の中、その人は言った。


「血の池だの針山だの……

 けどね、人間の想像する地獄のほとんどは、ある部分が決定的に間違ってるんだよ。どこだか分かる?」


 考えてみたけど、思いつかなかった。


「一人なんだよ。一人しか、いないんだよ」

 その人はそう答えた。


「地獄絵図っていうと、大勢の人が痛めつけられてる絵を思い浮かべるでしょ? けど、あれは間違ってる。地獄は一人で堕ちるものなの。他の人間なんて誰もいない。

 もし誰か一人でも他の人がいたら、慰めあったり、助け合ったり、励ましあったりしてしまうかもしれないから。

 それすら許されないんだよ。地獄っていうのは。


 目に見えるもの、耳に聞こえるもの、鼻に匂うもの、肌に触れるもの、口に味わうもの、全てが私に苦痛を与えるためだけに存在する。

 そんな中で長い長い間、自分のしたことを反省し続けなきゃいけない。

 誰も助けてくれない、たった一人で、全てを背負って。


 そういうところなんだよ。地獄ここは。


 だからね、気をつけなよ、あんたも。絶対来ないように」


 数ヶ月前に亡くなった親戚の顔をしたその人が、スーッと闇に溶けていき…… 私は目が覚めた。

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