プラスマイナス
ああ、今日もだ。
学校の駐輪場に止めた自転車がいたずらされている。
かごにはお菓子やパンの空袋が投げ込まれ、サドルは取り外され、タイヤは両方ともパンクさせられている。
ボディにも、油性ペンか何かで口にするのもはばかられるような言葉がびっしりと書き連ねてある。
今日は一段とひどい。
「そっちも?」
親友が尋ねてきた。
うなずくと、親友はため息をつきつつ自分の自転車を指し示した。そちらも同じようなありさまだった。
自転車だけじゃない。私や私の仲間達は、最近みんな学校で何かしらの嫌がらせを受け続けている。はっきり言っていじめだ。
でも、誰も声を上げない。上げられない。
助けてもらう権利がないのが、分かっているから。
長らく、閻魔大王は架空の存在だった。
人間を生前の行いによって天国か地獄に振り分ける、あの閻魔大王。
ところが先日、実在していたことが発覚した。
本人自ら、全人類の脳内に語りかけたのだ。
「お前ら人間は、最近悪いことをしすぎている。死後の世界だけで全てを裁くのもそろそろ限界だ。ある程度は現世で裁け」と。
そういうわけで、今まで現世でたくさん辛い目にあってきた人には、自分を辛い目にあわせた加害者にやり返していい権利が閻魔大王から与えられた。
許可された範囲内ならば、どんなにひどい復讐をしてもいい。
いわば、加害者にとっての「地獄」の役割を現世で果たすことができるようになったのだ。
逆に、加害者側に逆らう権利はない。逆らえば逆らうほど、かつて傷つけた人達に大きな復讐の権利を与えることになってしまう。
地獄に落ちた悪人が、決して地獄から逃れられないように。
「ひひひっ」
愉快そうな笑い声が響いた。
声のする方を見やる。私達がついこの間までいじめていたあの子が、困っている私達を見て笑っていた。
本当に楽しそうだった。
「参ったな。今日どうやって帰るか…」
親友は俯いたまま、自転車を見つめていた。
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