知りたがり

 高校の時、友人のお母さんが亡くなった。


 ほんの2、3回しか会ったことがなかったけど、友人にはいつもお世話になっていたから、お焼香してお香典贈るだけでもさせて頂こうと思った。


 その話を両親にした。

 2人は驚き、それから質問してきた。


「なんで死んじゃったの?」


 首をかしげて答えた。

「いや、それは聞いてないけど」


 すると両親は言った。

「そっか… じゃあお葬式で聞いてきてよ」


 いやいや、そんな雰囲気じゃないだろうし、何より失礼だろ… と思ったので、曖昧に濁しておいた。




 お葬式から帰宅するなり、両親が

「なんで死んじゃったんだって?」

 と顔を突き出して尋ねてきた。


「聞いてないよ。すぐ帰ってきたから」


 2人は「聞いてくればいいのに…」とあからさまに残念そうな顔をした。


 が、次の瞬間、また身を乗り出して

「じゃあ、明日学校でお友達に聞いてみてよ! 『なんで死んじゃったの』って!」

 と名案でも思いついたかのような調子ではしゃいだ。


 そんな簡単に聞けることでもないし、みんなが知っているとも限らないのに… と、「病気かな?」「交通事故じゃないだろうな」とワクワクしながら話している両親を見て思った。




 翌日、学校から帰ると2人はもう玄関で待機していた。

「なんで死んじゃったんだって?」


 いいかげん呆れて「聞いてくるの忘れた」と答えた。


 2人は呆れた顔で「大事なことはメモしなさいっていつも言ってるのに」と文句を言いながらこちらに背を向けた。




 両親は決して友人を心配しているのではない。

 退屈な毎日に突然転がり込んできた非日常を、ゴシップ感覚で楽しんでいるんだ。

 そんな奴らの前では、人の死という大きく、取り返しのつかない出来事さえエンタメになってしまうのだ。




 

 それからも、ことあるごとに。急に思い出したかのように。日常的な会話をしている途中で。


「そういえば、あの子のお母さんなんで死んじゃったの?」


 両親は尋ねてきた。面白い絵本を読み聞かせしてもらうのを楽しみにしている子どものように、目をキラキラさせて。


 もともと両親のことはあまり好きじゃなかったんだけど、この件で完全にダメになって、大学を卒業してからは、もう何年もあの2人と連絡を取っていない。

 あいつらが死んだら、死体に向かって「なんで死んじゃったの?」と質問ぜめしてやろうかと思う時もあるけど、虚しくなるだけだから多分実行には移さない。

 友人とは、今でも仲良くしている。両親の質問のことは、話していない。

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