「優しい子」
小さい頃から、みんなは僕を「優しい子」だと言っていた。
人の気持ちを考えて、人のために行動できる子だ、と。
ある日、友達の1人が大けがをした。
もう助からないと誰にでも分かるくらいの酷いけがだった。
友達は、息も絶え絶えに言った。
「どうせ助からない。これ以上痛い思いをするのは嫌だ。もう死にたい」
かわいそうだった。
だから、僕はその子を殺した。
みんなはやっぱり僕を「優しい子」だと言った。
「死にたい」という本人のお願いどおりに死なせてあげるなんて、簡単にできるものじゃない、と。
そうか。死にたがってる人は、殺してあげればいいんだ。
そうすれば喜んでくれる。死ねば痛くも苦しくもなくなるから。
それから僕は、色々な人たちを望みどおりに殺した。
「仕事をクビになってしまったんだ。死にたい」
「かわいそうだね。殺してあげる」
「大好きだった恋人と別れてしまったんだ。死にたい」
「かわいそうだね。殺してあげる」
「どんなにダイエットを頑張っても理想の体型になれないんだ。死にたい」
「かわいそうだね。殺してあげる」
「大事なテストの結果が悪かったんだ。死にたい」
「かわいそうだね。殺してあげる」
そうやって殺し続けた。
ある時、ふと気がついた。
誰もいない。
この町はいつも人がたくさんいてにぎやかだったのに、今は町中誰もいなくてしーんとしている。
となり町にも行ってみた。
誰もいない。
そのとなりの町にも行ってみた。
やっぱり誰もいない。
そのとなりの町も、そのとなりも、そのとなりも、ずーっと行っても同じだった。誰もいない。
少し考えて思い出した。
そうだ、僕が「優しい子」だという評判が立って、少しでも死にたいと思った人はみんな僕のところに来たんだった。
それで、僕はその人たちをみんな殺したんだった。彼らの望みどおりに。
そうして僕はいつの間にか、世界中の人たちを殺していたんだ。
よかった。僕は世界中の人たちに優しくできたんだ。みんな天国で喜んでいるだろうなあ。
そう思った。
なのに、急にさびしくなった。
だって、もう誰もいないんだもの。僕意外誰も。
ああ、さびしい。さびしい。…死にたい…
誰か1人でもいてくれさえすれば、さびしくなくなる。そしたら死にたいと思わなくなるのに…
僕はやっと気付いた。
本当に「優しい子」なら、「死にたい」って言われたときに殺したりしない。
本当に「優しい子」なら、「死にたい」理由を取り除かなきゃいけなかったんだ。
もう助からないとしても、最後までそばに寄り添って、少しでも安心できるようにすればよかった。
仕事がないのなら、お金や物をあげたり、新しい仕事を見つけられるように手伝えばよかった。
失恋したのなら、辛い気持ちをたくさん聴いて、ちょっとでも気持ちを分かち合えばよかった。
理想の体型になれなくても、君は今のままで十分素敵だよって言えばよかった。
テストの結果が悪かったなら、一緒に間違えたところを復習して、また挑戦すれば大丈夫だよって言えばよかった。
みんなみんな、殺すよりいい方法があったのに。
僕は殺した。彼らのことも、彼らが生きられたかもしれない幸せな未来も。
そういえば、僕はみんなの殺し方は知ってたけど、自分の殺し方は知らなかった。
だから、僕は今でも1人さまよい続けている。
誰もいないこの世界を。
いつか死ぬその日まで。
…さびしいままで。
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