前後

今日は休日。午前中はずっとベッドでゴロゴロして過ごした。

12時を少し過ぎた頃、お昼を買いにコンビニに行こうと財布と鍵だけ持って自室のドアを開けようとした。

すると、声が聞こえてきた。ドアの外から。


「ねえねえ、あそびにきたよ! あそぼ!」


声からして小さい子だ。

おかしい。家の人はみんな朝から出かけているし、そんなに幼い子で家に遊びに来るほど親しい知り合いはいない。

根本的な問題として、なぜ家の中にいる? ちゃんと施錠したはずだ。


「ねえねえ、あそぼうよ! ここあけて!」


まだ言ってる。


「どうしたの? はやくはやくう!」


ドアノブに手をかけたまま、ただ固まっていたら、声はだんだんと低く、しわがれた、すべてに濁音がついているようなものになっていった。もはや到底子どもとは思えない。


「あ゛ぞぼ? ね゛え゛え゛え゛え゛? な゛ん゛で? な゛ん゛であ゛げでぐん゛な゛い゛の゛? あ゛ぞぼう゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛」


ベッドに潜ってじっとしてればやり過ごせるかもしれない。


でも、それはできない。


なぜなら、声が聞こえ始めたのとほぼ同時に、後ろから肩を叩かれ始めてたから。


ぽん ぽん ぽん ぽん ぽん


一定のリズムで、左肩を、まるでこちらに気付いていない友人を呼び止めるかのように。

言うまでもなく、この部屋には自分以外誰もいない。ドアは閉じたままだったし、窓にも鍵をかけていたし。


ぽん ぽん ぽん ぽん ぽん


まだやってる。

ドアノブに手をかけたまま、ただ固まっていたら、徐々に肩を叩く力が強くなってきた。こちらに気付いてもらうためではなく、ただ痛みを与えるためにひっぱたいているような。


ばんっ ばんっ ばんっ ばんっ ばんっ


肩はもう真っ赤に腫れあがってるだろうと思うけど、見て確認することはできない。

今すぐにドアを開けてこの部屋から飛び出せば逃れられるかもしれない。


でも、それはできない。


「あ゛~ぞぼ! あ゛~ぞぼ! あ゛げでよ゛あ゛げでよ゛あ゛げでよ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!」

ばんっ ばんっ ばんっ ばんっ ばんっ ばんっ ばんっ ばんっ ばんっ ばんっ


一体どれくらいこうしているんだろう… ノブを握りしめたままの掌は汗でびしょびしょだ。

誰か… お願い… お願いだから、誰か帰ってきて、早く………!



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