第八十一話『家具』

「念願のマイホームゲット!!」

サラが笑顔でそう言った。かくして、僕らは念願のマイホームを手に入れたのだった。


「この年で家を買ってしまった・・・」

僕は感慨深く思う。こないだまで、この『ラスト・オンライン』を買うための貯金をするのに、一生懸命バイトをしていた僕が、ついに家を買うところまで来てしまった。おそるべしVRMMO。しかも5000万ゴールド即金で。


「これで一国一城の主ね」

と、腕を組みながら、自分の家を眺めるサラ。僕らは隣同士に家を買っていた。だいたいどこのチームも一区画内に家を買う、つまり隣同士になるのが通例となっているらしく、僕らもその慣例に従っていた。


「お庭に手を入れたいですね。」

奈緒子は、隣で庭を眺めながら、そう言った。やりたいことが、色々あるみたいだった。女子チームの家へのこだわりはかなり男子の概念とは違っていて、とても面白いなと思っていた。どちらかと言えば男子はもっともっとドラゴンと戦いたい、と思いそうだ。


『ラスト・オンライン』はゲームとはいえ、没入型なので、もうそれは、家に済んでるのと同じことで、今までのゲームの家を購入するのと、ここで家を買うのは、まったく体験が異なる。


「稼いだお金で、家を買うのってすごいことなんだなぁ」

と、普通のゲームで家を買うときとは全く違う感想を僕は持った。


「なんだか、妻子持ちのお父さんみたいな意見ね」

とサラが笑う。

「ほんとだよ、僕まだ未成年なのに」

と僕も笑った。


「こういう体験が出来るのが、VRMMOの凄いところかもしれませんね」

奈緒子が僕と同じ意見を持っていた。このVRMMO『ラストオンライン』の凄いところは、現実とファンタジーの世界を結ぶ、ぎりぎりのリアル感なのではないか、と僕らは思った。マンションと城が同時に存在する選択肢の多いリアル。


「さて、家具がないよ家具が!!家がスカスカ!!ぬいぐるみ分が足りない!!買いに行こう!!」

「ぬいぐるみで埋める気なのか」

サラがピョンピョン跳びはねながら、新築はならではの家の広さに、いろいろ買って埋めていく喜びを求める。しかもなぜかぬいぐるみで埋めるつもりらしい。


「てか、もう、二つも持っているじゃん!!」

と、最初のショッピングで、サラが二つもぬいぐるみを買っていたのを思い出した、いや、二つ買ったのは着ぐるみだったか、言ってから頭の中で整理する。


「二つ買ったのは着ぐるみね!」と注意された。


「ぬいぐるみで埋めつくされた、ぬいぐるみ部屋を作らないと」と、大いなる野心を持つサラだった。なかなか現実世界ではできないことだから、なかなか素敵な野心だな、と思った。


マイホームを持った今、アイテムに対する目線は大きく変わった、最初に買いものに行ったときはやっぱり、RPGっぽいものの方が気になった。


「ショッピングに行こう!」

サラが笑顔でそう言った。

家を買い大きく視点が変わった僕たちのショッピングが始まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る