第五十五話『D級英雄1位チーム ジェムボックス』

「その人達、元A級の『ジェムボックス』さんですよ!!」

と、僕の裾を掴み、小さい声で、奈緒子が僕に告げた。向こうのチームに聞こえないようにちいさな声で。


「え?知ってるの??」

と、僕が訊ねる声を耳にして、元A級、現在D級1位の『ジェムボックス』少女、珊瑚は、へへーんと、胸を突き出して笑っていた。


「ほらなぁ」

と、自分が知られていた事に、さらに鼻を高くする、珊瑚。


「すごい、そうなんだ?なんで奈緒子は知ってるの?」

「えっ、だって」と、ジュンさんはなんで知らないんですか?と言わんばかりな表情の奈緒子。そして、あっと、アイテムを選び始めた。


「これ・・・」と、雑誌を取り出す奈緒子。

このゲーム「ラスト・オンライン」はゲーム内で雑誌を読むことが可能だ。「ラスト・オンライン」内のアイテム「ラスト・オンライン通信」という雑誌だ。この雑誌は、ゲーム内でも現実でも出版されているものだ。なので、ゲームをやり始める前でも本屋で買って、読むことが出来るのだという。


「ほら、ここに乗ってますよ」

と、パラパラと「ラスト・オンライン通信」をめくり、興奮した様子の奈緒子。お気に入りのページを探しているようだ。


「ジュンさん見てください、このコーデとかこの帽子とかかわいいんですよ!?」A級英雄、美少女コーデ特集というコーナーに、瑠璃、珊瑚、水晶が取り上げられていた。そんなコーナーがあるのか、と僕は思う。


「読モみたいなこと??すごい世界が広がっているんだね」と驚いた。こういう細かいところが、「ラスト・オンライン」のウリではあるのだが、まさかここまでとは。無限に広がる「ラスト・オンライン」ワールド。


「ああ、やっぱり!!かわいい!皆さん握手してください!!」と、大はしゃぎの奈緒子。だから、珊瑚さんに話しかけられたときから、驚いた顔をしていたのかぁ、と僕は思った。


「うわー本物だぁ」と握手して回る奈緒子。


「きゃー、瑠璃ちゃん、やっぱりちいさいー!!かわいー!!」

「ありがと」その奈緒子のテンションに押されている瑠璃。


「思っていた以上に有名人だったようやな」と、ドヤっと言わんばかりの表情で僕を見てくる、珊瑚。


「ほんとだ、知らなかった。ごめんごめん。そのA級のみんながなんでD級になってるの??」

と、僕は気になったことをそのまま聞いてしまった。


「それはなぁ、話せば長くなるんやが」と、大げさに珊瑚が振る舞う。

「ならないよ、みんな受験してただけ」さらりと言う瑠璃

「うわー、一言で言いおった、あの辛く長いストーリーを」と、大きなリアクションで瑠璃に抗議する珊瑚。

「珊瑚は人より、勉強頑張らなきゃいけなかっただけ」と、ボソリと説明する瑠璃。


「ちょっと、受験勉強で、お休みしていただけですね」と、水晶さんもニッコリと笑う。この二人は珊瑚の扱いに慣れているようだ。


そう、この三人チーム『ジェムボックス』は仕組み上ランクが落ちてしまった、本物の実力を持った三人なのだった。

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