第19話融合した世界
「大丈夫ですか?」
「ええ、少しめまいがしただけです。」
倒れた菫星にドラゴンナックルが声をかけて起こす。
「………そう言えばたかやが言っていた十種神宝って何なんだ?」
「……伝承で伝わっているアイテムの1種だ。10個集める事でヤマトが統一されていると言われてるアイテムだな。」
こっそりと聞いてきたえんたー☆ていなーにたかやがそう言ってさらに解説を行う。
「……本来の十種神宝とは別物になっているけど、これはおそらく、幾つかの要素が混ざり合ってできているんだと思う。」
「幾つかの要素?」
「まずは、おそらく準備されていた『十種神宝』の空白データ。そしてストーリー上で交易路がないウエノに<ご禁制の薬>を作るための力。おそらく最低二つの存在が<大災害>で混ざり合ってできた物だと思う。」
「そう言えばナンバー16って言っていたけど、それは矛盾してねえのか? だって十種神宝は10個で1組だろう?」
「あの場で言ったはずだ、5か所で10個のアイテムを揃える為に奪い合うってのは難しい話だ。それぐらいなら数を多めに用意してばらまいた方が、防衛とかを考えずにガンガン冒険できて面白いだろ?」
「確かに10個奪い合うってのは、時間かかりそうだな。」
「ああ、おそらくそういう空白の枠のアイテムと他のデータが融合してしまったのが『創造級』なんだろうな。」
「でもさ、わざわざ他の人に相談するほどの事か?」
「………ウェルカム。このアイテムがウエノで『何』を作っていたのかを忘れたのか?」
ややとぼけた質問にとんすとん店主が頭を抱えて答える。
「??……あ。」
「そうなんだ。このアイテムで<ご禁制の薬>を作ることができるんだ。」
たかやが神妙にそう言う。
「なんとか使い方がわかったんだが、店売りのポーションならばまだしも<魔法級>のポーションや期間限定……。」
「たかや!」
ふと言いかけた言葉に対してドラゴンナックルが大声で止める。
「キカンゲンテイとは何でしょうか?」
「まあ、昔は簡単に手に入ったけど、今は手に入れられないアイテムの事です。
「はあ。」
菫星がそう言って質問をずらす。
「そう言ったものだけじゃなく今まで俺達冒険者が手に入らなかった薬や道具も手に入ってしまうんだ。」
「………なるほど。そのアイテムをどうしたいのですか?」
「……本来なら銀行に預けておきたいんだが、十種神宝はヤマトを左右する宝だろ?」
「多分イベント準備されてないから大丈夫だとは思うけど……。」
たかやが再びうかつな言葉を発しかけるのを、ドラゴンナックルが視線で止める。
(たかや、うかつすぎるわよ!)
(いやすまん。でも解説しとかないと、他の奴はわからないだろ?)
(解説しすぎて菫星さんがぶっ倒れたらどうするの?)
たかや達はあの後話し合って、恐らく盗賊の暴走は自分達をゲームの世界の人間だと認識してしまったが故の暴走……そう判断したのだ。
その為、なるべく相手がこの世界がゲームだと気がつかないように喋ろうとするのだがたかやはついつい癖でゲーム用語を口走ってしまう。
「……本来ならどっか海の底に沈めてしまうのが一番かもしれないが使い道が多すぎてもったいなくてな。
と言うか欲しいアイテムが色々とあるんだよ! ぶっちゃけると<クレスケントポーション>とかな。」
「その言葉は聞かなかったことにしましょう。十種神宝はヤマトの宝です。捨てるなどあってはならない。」
その言葉に一同の体がびくっとする。
「…………それでもこれをどうするかってのは仲間内でも意見が割れてて、今まで冒険者が見た事のないレアアイテムですし。」
「俺的にはオークションに出してその金を山分けすべきだと思ってるんだけどな。」
「……やらない方が良いでしょう。嫌われますよそういうことは。」
「ああ、都市好感度が下がるのは……と。」
うかつな事を言いかけたたかやに対してドラゴンナックルがしっかりと止める。
「私としては、このアイテムは捨てるべきかなと思ったんですけど、止められちゃいましたしね。」
「………まあ俺としては適当なレアアイテムを幾つか貰ったらそいつに渡してもいいと思ってるよ。
どうせ素材にも出来ねえんだし。」
「……問題はこの手のレアアイテムに匹敵するアイテムを誰も持っていないって事だな。」
「……私なりの意見を言うのならば。」
菫星がそう言って一同を見渡す。
「このアイテムを私に売ってください。交換用のアイテムは幾つか準備しますので。」
「……えっ? あんたが買うのか?」
「はい。その後私が安全な場所で保管しようと思います。」
「そうか銀行の人間に保管してもらえるなら安全だな。」
たかやがそう言って一同を見渡す。
「俺も、報酬が何になるのかは知らないけどな。」
「…そうですね。金貨500万枚はどうでしょう?」
「500万枚?アイテム1つに破格じゃねえか?ていうか一介の冒険者が何に使うっていうんだ?」
(先日それと同じ金額を使った冒険者がいるのですが……)
声には出さずに菫星がさらに言葉を続ける。
「ちょっと全員で相談したいんですがよろしいでしょうか?」
そう言ってたかや達は顔を突き合わせて相談を行う。
「……話し合ったんですけど8割掛けで素材で欲しいんですが……。」
「素材ですか?」
「………金貨で欲しいもんがねえんだよ。それにな。ちょっとどんな素材アイテムがあるのかをまとめてほしいし。」
「わかりました。では素材アイテムを金貨400万枚分準備します。」
その言葉と共に菫星は部屋から去っていった。
なおこの時、貰った素材アイテムは、オキュペテーを作るのに使われたのだがそれはまた別の話である。
銀行の地下
『……なるほどなあ。アキバ円卓会議か。』
「リョウマさん。それがどういう意味を持つのかわかっているのですか?」
菫星がそういって、鏡の向こうのリョウマに声を張り上げる。
『あ? 冒険者がアキバの町の自治組織を立ち上げた。その程度の話だろ?』
「リョウマさん!」
『そんな事、お前たちの管轄外だろ? お前たちの活動は銀行と、暴力行為の阻止だけだ。』
「!!!!!!!」
その言葉に菫星の息がつまる。それだけは事実だからだ。
『冒険者が、どれだけ妄言を吐こうがお前達とは関係のない話のはずだ。
それとも何か? 妄言は悪くて、盗みは良い事なのか?』
「それは……。」
『それが嫌だったらミナミのように動いた方が良い。
少なくとも俺は円卓会議のギルドと交渉をする予定だ。』
「………つまり、ミズハラ商会は、円卓会議を認めるという事ですか?」
『そうだな。少なくとも認めざるを得まい。お前達はな。俺はその相伴にあずかるだけだ。』
その言葉に菫星は今まで祈った事のない神様に祈りたい気分になった。
大商人であるミズハラ家がそうであるのなら、他の商人もそれに追随するだろう。
『あとだな。『ウルフ&フォックス』だが……ススキノに逃げたらしいな。』
「ススキノに?」
『ミナミにいた連中が全員捕まったんだと。こちらでもそうなるんじゃないかと戦々恐々らしかったぞ。』
「………そうですか。」
その言葉に菫星は力なく返す。
『……それとお前に聞きたい。ヤマトの範囲はどうやって決まっている?』
「ヤマトの範囲? それは最初から決まっている事ですが?」
『………そうか知らないのか。』
その言葉に菫星が違和感を覚えるが、気にせずにリョウマは話を続ける。
『おっとそうだ。これからセルジアット公との謁見があるんだ。他に話を聞いてから行くから、ここで連絡を切らせてもらうよ。』
その言葉と共に<遠見の鏡>の連絡が切れる。
「………しかし。創造級アイテムを冒険者が手に入れるとは……。」
菫星はそう言って胸にしまってある代々伝わる鍵に手を当てる。
<黄金の川への鍵>それもまた創造級アイテムの一つであった。
「何かありえない事態が起こっているのかもしれませんね。」
菫星は誰に聞かれることもなくそう呟いた。
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