第9話『クレセントバーガー』

中央広場はかなりの熱気を帯びていた。

「味のする料理だって?」

「ああ、かなりの人間が食べているし、まず間違いないだろうな。」

その噂話を聞きつけてさらに人が増えるという流れを生み出してた。

「すっげー人だかりだな。」

「町のうわさも『クレセントバーガー』一色だしな。」

調査をしている最中に噂を聞きつけたたかや達は、そう言いながらその人だかりを見る。

「……どうして味のある料理を作れるんだ?」

とんすとん店主が恨めしそうに言葉を紡ぐ。

「いや……もしかして……。だとすると……。ああでも……。」

「たかや、何かわかったの?」

たかやは何やら複雑に考えながら、一気に考えを巡らせる。

「ちょっと離れた場所で話そう。」

そう言ってたかや達は、中央広場を離れ近くの酒場に入っていった。


「何かわかったような顔をしていたが、一体何だっていうんだ?」

「……何故、この世界の料理には味が無いか考えた事はありますか?」

「……たかやが言っていた受け売りになるけど、おいしさのステータスを無くしたんだっけ?

 それでバフとデバフだけの強化職業になったって……言っていたわよね。」

ドラゴンナックルがそう言ってたかやに同意を求める。

「ああ、その解釈で間違っていないと思う。」

そう言いながらたかやはさらに説明を続ける。

「これはまだ未確認だけど、『本来手に入れられなかった』『遠見の鏡』が手に入るようになったのと同じで、『おいしさのステータス』が残っている『料理』の『レシピ』がどこかにあったんじゃないか?

 本来なら上書きされるはずの『レシピ』の中で『おいしさのステータス』の書き換えがおこらなかった、『レシピ』がどこかに残されていたんじゃないのか?」

「なっ! なんだよそれ! 発見したんだったら公開すりゃいいじゃないか!」

「無償で情報をばらまく奴は同じく無償の情報を欲しているから無償で情報を渡すんだ。

 三日月同盟はその手のwikiには入っていなかったから、その問題はどうということは無い。」

たかやはそう言って、激昂しかけたえんたー☆ていなーを止める。

「……なるほど。」

ややがっかりした様子でとんすとん店主が肩をがっくり落とす。

「どうしたんですか?」

「現実世界では焼肉屋をやっていてな。いつもいつもお客さんは料理をおいしく食べて帰っていくんだよ。

 だけど、この世界は数字が全てだ。どれだけ気持ちを込めようと数字と確立に支配されておいしい料理さえつくれないからな……。」

「……なあたかや。悪いけど俺調査抜けてもいいか?」

そういってえんたー☆ていなーがたかやに声をかける。

「何かしたいことでも見つかったのか?」

「まあ……ハンバーガーを腹いっぱい食いたいって、それだけなんだけどな。」

そう言ってたかやに声をかける。

「……俺もかな。」

そう言ってウェルカムも手を上げた。

「…そうか。じゃあ俺一人でやるさ。」

「私も付き合うわよ。私が持ってきた依頼だし。」

たかやの言葉に、ドラゴンナックルが言葉を上げる。

「……しばらくお前も別の依頼を受けた方が良い。」

とんすとん店主がそう言って、たかやを制止する。

「まだ犯人の手がかりさえ見つかってないのにですか?」

「どうやら、被害の割合は減ってきている。それに正式に依頼を受けたわけじゃないだろう?」

「そりゃそうですけど……。」

「一人で背負い込むな。幾らお前が駆けずり回ったって、犯人を捕まえられる人間が捕まえようとしない限りつかまることは無い。

 それにだ、お前の言う都市好感度と言いうものが存在するんだったら、きちんとした依頼を受けていった方が、受かる可能性も高くなるだろ?」

とんすとん店主の言葉にたかやは黙り込む。

「そう……ですね。確かに近視眼的になっていました。しばらく別の依頼を受けてみます。」

たかやはそう言って大きくため息をついた。

「でもさ、味付き料理の味付きレシピって誰が持っているんだろ?」

気の抜けた雰囲気になったのか、えんたー☆ていなーが声を出す。

「料理の味の数字が無くなったのが、まだ拡張パックが出ていないかった時期のはずだ。」

「20年ぐらい前からか……。」

「まだできていたのはアキバとその周辺……初期コラボの関係上マイハマはかなり最初期から存在したからそこも候補に上がるな……後は……。」

たかやはそう言いながら、『味のあるレシピ』から思考が離れることが無い。

しかしながらそのたかやの思考に1つの疑問が生まれる。

「本当に昔のレシピなの?」

ドラゴンナックルがそう言って、たかやの説に異議を上げる。

「……ん??」

「『遠見の鏡』とか、本来手に入らない物が手に入るようになったのは知ってるわよね。

 だとしたら、なんかイベント上で食事の場面があってその中で『美味しい』って言われたアイテムだったら『美味しい』んじゃない?」

「なっ………」

その言葉に一同が凍り付く。

「恐ろしい事を言うなよ……。<エルダー・テイル>にどれだけのクエストが存在すると思っているんだ?

 その中の美味しいって喋ったクエストは、俺は覚えていないぞ………。」

「他のハンバーガーとかは味がしねえから、覚えている範囲で料理の味が説明されたクエストとかあったか?」

その言葉に全員が凍りつく。

「……おそらく俺がこの系統のクエストに一番詳しいんだろうが……。すまん憶えていない。」

「…いやさ、お前の記憶にないってのが一つの目安になるさ。さてと……ハンバーガーと言えば………。」

何やら手を動かそうとしてウェルカムの手が凍りつく。

「ハンバーガーといえば……何処だ?」

「……なるほど由来のある場所を考えれば良いのか。」

そう言いながらもたかやも動きを止める。

「……ネットねえから調べられねええええええええ!」

「しかも、ご当地バーガーって結構あるから調べても時間がとんでもなくかかるだけ!」

えんたー☆ていなーとドラゴンナックルが叫び声をあげる。

「佐世保か?? いやだが、あそこは確かナインテイルだったよな。」

ブツブツと言いながらとんすとん店主がしっかりと考える。

「………昔のものとなると必要になる生産職の技能レベルは低くても大丈夫だとしてだ……。

 あっそうか、一回変更すると、また上げなきゃいけないんだから……。」

たかやがそう言って次々と思考を巡らせる。

「でもさ、それだったら何で普通に料理ができないんだ?」

「えっ??」

「例えばイベントシーンで料理を普通に作る場面があったんだったら……。」

「いや、<エルダー・テイル>でその手のイベントは無かったはずだ。」

とんすとん店主がそう言って、一同を見渡す。

「確かに料理を持って来いとかその手のクエストばっかりでしたよね……。」

たかやはそう言って、とんすとん店主の意見を指示する。

「……ムービーとか予算削りまくってるからなー。<エルダー・テイル>は。」

たかやはそう言って、うんうんとうなずく。

「じゃあ、料理の途中の場面が映されたことがない……だから『料理の途中』もできずに中途半端に料理を作ろうとすると……。」

「ルール違反になって、アイテム破壊か。こりゃわかりやすいな。」

えんたー☆ていなーがそう言って、苦笑いをする。料理の出来ない理由がわかったので満足したといった表情だ。

「薪を切る場面はありましたから、そう言うのは普通にできるんでしょうけどね。」

ウェルカムが苦笑いをしながらそう言った。


そんなこんなを話していると、1人の少年がたかや達の元へと近づいてきた。

「……皆さん、お久しぶりです。」

「タカヤじゃねえか!……NPCの」

えんたー☆ていなーがそう言って、その顔を見て驚く。

「NPCってなんでしょうか?」

「……気にするな。それで、俺達に声をかけたのは何なんだ?」

「実は皆さんに依頼があるんです。」

「……盗難事件の続きか?」

「いえ、対処を続けているので、事件自体は減ってきています……。

 今回は別件で2つあるんです。」

「2つ……参ったな。今のメンバーだとできる事じゃねえぞ。」

「どちらか片方ずつだけでも構いませんので、よろしいでしょうか?」

「……話聞いたら引けなくなるとかそう言う話じゃないよな。」

「聞くだけ聞いて依頼は受けないのも仕方がないと思っています。今回の仕事は皆様が信頼できると思って依頼する事です。」

そう言って、タカヤは依頼書を2つ取り出す。

「1つは、今アキバで話題になっている、『クレセントバーガー』の秘密を探ってきてほしいんです……。

 報酬は金貨24,000枚で全額後払いです。」

「24,000枚で後払いか……。」

それについては仕方がないと思う。今かなりホットな話題だし、売り上げを考えたのなら仕方のない理由だろう。」

「追加注文で、秘密がわかったとしても、他の人間に秘密をばらさないでほしいという事でした。」

依頼におかしなところはない。逆に秘密も含めているからこその24,000枚なのだろう。

「もうひとつの依頼は……護衛任務です。」

「護衛任務?」

「現在、アキバから逃げようとしている人たちがいます……治安の悪化が少しずつ始まっていて、知り合いがいる人間は逃げようとしている人達もいるとの事でした。

 こちらの報酬は先払いで100、後払いで300です。」

こちらの方が安いのは仕方がない。しかしながらたかやはこの依頼を断るつもりだった。

「……護衛任務については、現在の俺達では手に余るところもあります。信頼できる戦闘ギルドをあたってみてはいかがでしょうか?」

「すみません、信頼できる戦闘ギルドが何処かわからないんです。小さい物から大きなものまで色々とあって……。」

その言葉にたかや達は黙るしかない。

「この手の、護衛任務を請け負うとなると<三日月同盟>だが……。」

「……今の<三日月同盟>には頼りたくありません。」

「そうだな。<クレセントバーガー>で色々と忙しいだろうからな。」

「……冒険者さん達はそう考えているんですか?」

「ああ、そりゃ今アキバで最も忙しいギルドだからな。」

とんすとん店主がそれほど気にせずに言う。

「<D.D.D>は人数が多い分色々と大変だろうし、<海洋機構>は素材集めで相当苦労しているからな……。」

「たかや、それでもあれだけの人数で動いているんだったら、情報を集めないとやってられないわよ。」

「なあ、こちらからも幾つか聞きたいことがあるんだけどさ。」

ウェルカムがそう言って、タカヤの方に声をかける。

「なんでしょう?」

「どうしても確認しておきたいことがあるんだ。子供作る時●…!!!」

明らかにR15になりそうな言葉を吐きかけたウェルカムをとんすとん店主とえんたー☆ていなーが必死に止める。

「止めろー! BANされたいのかー。」

「止めるなー! そんな場面表現されるはずがないし、どっちなのかさっぱりわからんだろうー!」

●●●するとしてもしないにしても、恐ろしい場面を思い浮かべることになるので、たかやは次の話をタカヤに振るう。

「……俺からも一つ聞きたいんだ。」

「なんでしょう?」

たかやの言葉にタカヤが応じる。

「辛い料理ってどんなものなんだと思う?」

「……辛い……ですか?」

何を言ってるんだという雰囲気でタカヤが聞き返す。

「……例えばカレーライス。どんな感じなんだ?」

「すみません。聞きたい事の理由がさっぱりわかりません。」

その言葉に一同がずっこける。

「フレーバーテキストは、それほど重視しなくてもいいって事か………。」

この確認からくる歪みがフレーバーテキストの軽視……そしてとある事件に続いていく事をまだたかや達は知らない……。


「……いちいち並んで買うなんて馬鹿らしいじゃん。」

『ウルフ&フォックス』のメンバーはニヤリと笑う。

「どうせ、衛兵が動くはずがないんだし。」

「ここは私達の天下なんだからさ……。」

彼らは闇の中で笑う。必死に努力するものをあざ笑いながら。

彼らの耳に念話が入る。

「ああ、どうした?ミナミで何が起こったのか?」

『なあ、そちらで味のする料理ができたってのは本当かい?』

「ええ、只今ごちそう中……こっち来る?」

『……変な噂が流れているのよ。こっちだと。』

そう言って、念話の向こうの相手は、『フェンリル』に告げる。

『<クレセントバーガー>に『ご禁制の薬』が使われてる可能性があるって。』

「<ご禁制の薬>?何よそれ。」

『知らないわ。でもご禁制っていうぐらいだから何か不都合があるのかもね。』


アキバの銀行の奥……菫星は鏡の前で話し合っていた。

『だからこそ我々は変わるべきなのだ! 今<クレセントバーガー>の人気を見ている貴様ならばわかるだろう?』

「確かに<クレセントバーガー>に<ご禁制の薬>が使われている可能性は非常に高いです。」

菫星は大まじめにそう答える。相手はミナミの銀行の幹部であり、菫星とある1点を除きほぼ同じ権限を有している。

「しかしながら証拠はない。冒険者によって購入された場所の中を覗く手段とバッグの中身は我々は見ることができません。」

それは即ち、彼らがどのような材料で<クレセントバーガー>を作っているのかさっぱりわからないという事だ。

「……しかしながら、貴方の意見には反対です。我々の先祖代々の盟約を破ってまで冒険者を長期にわたり監禁するなど……。」

『盟約か……それで商人の財が守れたか? それで本当に治安が守られたと言えるのか?』

「復讐などやめるべきです。」

理屈をつけるミナミの幹部に対して菫星は声をかける。

『……我々の盟約は妻の命を守れなかった……ならばせめて他の奴の妻を守れる手段を作り出して何が悪い??

 貴様は冷酷な男だ……いや冷酷なだけならばまだましだ。貴様は世界の事を鏡越しでしか見ていない……。』

「鏡越しで十分です。」

菫星はそう言うと目の前の男の言い分をサッサと切り捨てる。

「ですが、<クレセントバーガー>は大変に危険です。彼らの周辺で事件が起きたとしても、衛兵が動くのも少し遅れる事になるでしょう。」

『………そうか。衛兵の動きに関しては、我々は我々の方法でやる。』

あちらの幹部はそう言って、鏡の通信を切った。

「………盟約を捨ててまで、財産を守る必要があるのでしょうか………。」

菫星はそう言って、向こうの幹部の行動に疑問を抱いた。

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