エピローグ

 エリクマリアの郊外。小高い丘の一つにミリアは立っていた。目の前には質素な墓が一つある。墓の表面には名も掘られておらず、二つの剣だけが交差するように突き刺してあった。

 ユウリが死んで一月が経った。勇者機関の崩壊の影響はすさまじく、力の均衡がなくなったために、多くの組織や魔物達が勢力を増やそうとやっきになった。結果、混沌と地獄の日々がしばらく続いた。だが、今ではその混乱も収束しつつある。

 収束の要因の一つはライエン家の魔導具だった。彼らが魔導具の流通を絞り、特定の勢力のみに魔導具を与えた結果、支配関係は簡単に決まってしまった。見方によっては蛮行とも呼べるその行為は、結果的に多くの血を流すことをくい止めた。


 また、勇者達の大半はその行いを不問とされ、様々な組織へと散っていった。彼らは機関の悪事を知らずに強制させられていたのだから、彼らに罪はないと様々な勢力が主張したためだった。しかし、その言い分の真意は彼らの力が欲しかっただけに過ぎないだろう。

 だが、例外もある。レイドとデミラだ。彼らの行いはあまりに非道だった。だから、今は彼らは厳重に隔離されている。彼らがどう罪を償うかは、今も決まってはいない。

 こう見ると勇者機関に代わって、ライエン家とその他の勢力がその座を手に入れただけだと、主張する人間も多いだろう。だが、勇者機関のような非人道的な組織が世界を納めるよりはよっぽどいいと、ミリアは強く信じていた。


「ユウリ。あなたのおかげで、世界が変わった。これで前より幾らか、幸せな世界が訪れた」


 穏やかな横凪の風がミリアの頬を撫でる。彼女の髪が風に靡きながら煌めく。


「でも、まだまだ世界は、残酷な事で満ちてる。非道な行いは止まることをしらない。だから、私は戦う。絶望を一つでも無くすために。悲鳴を上げる人たちを一人でも救うために」


 ミリアは墓をじっと見つめる。そして祈るように呟いた。


「もう二度とユウリやお姉ちゃんのような、辛い目に会う人たちが現れないようにしてみせる。どんな人でも、生きていて幸せだったと思える世界にしてみせる」


 ミリアは立ち上がり、ユウリの墓に背を向ける。ミリアの視線の先にあるのは、魔導都市エリクマリア。まだミリアはそこでやるべき事がある。


「また、来るわ。次はもっといい報告ができると思うから、待ってて」


 そしてミリアは歩き出した。世界に蔓延る悪と戦うために。


 地面に突き刺さる魔剣と聖剣は、太陽の光を一身に浴びて煌めいた。




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 これは復讐の物語ではない。

 

 これは外道の物語ではない。


 これは悪鬼の物語ではない。



 光で世界を照らし、

 正義を掲げ、

 悪に立ち向かう。


 勇者の物語である。




 どうか、彼女の生きる世界に光りのあらんことを。



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アンチヴレイブ 出壊鉄屑 @Legend_Likyu

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