第3話
青白い魔力に満ちた部屋。その中心に漂う銀の球体――エターナルはその神聖な部屋の主らしく、堂々とそして静かに佇んでいる。
また、室内には男がいた。銀髪を生やした鮮血の魔神――レイド。
彼はエターナルを背にして、正面の扉を睨み続けていた。
彼の頭にあるのはファウンドの事。そして妹の事だけだ。
彼はゆっくりと目を閉じると、過去に思いを馳せる。
ただひたすら暗い部屋。何もない、何も見えない部屋。そこで何度も上がる悲鳴に近い叫び。
「お兄ちゃん止めて、止めてよ!」
それはいつもの事だった。いつもの兄弟の交わり。それはレイドにとって、愛を表現する当たり前の行為だった。
レイドは妹を愛していた。欲していた。だからこその行為だった。だが、妹はそれを拒み続けた。だから、レイドは無理矢理に、そして乱暴にそれをやり続けた。それが、彼女の幸せに繋がると本気で思っていた。自分と添い遂げる事こそが、妹が救われる唯一の事だと思っていた。
しかし、邪魔が入った。神聖な兄弟の営みに水を差す奴がいた。
「その汚らわしい体をどけろ」
その蔑んだ声は今でも鮮明に思い出せる。妹はそいつの背に隠れるように回る。まるでレイドが悪者みたいだった。
「お前はこれから先、絶対にエミリアに近づくな」
ファウンドはレイドの言い分などまるで汲むことなく、一方的にレイドから妹を突き放した。理不尽極まりない。どんな権限が彼にあると言うのだろうか。だが、妹はレイドから逃げるように彼の元に向かった。
それから、妹はファウンドに夢中だった。寝てもさめても、奴の事ばかりを追いかけているようだった。レイドは妹の心も体も完全に奴に奪われた。
レイドはファウンドが狂おしいほど憎かった。ファウンドに焦がれるほど嫉妬した。
だから、ある計画をした。奴から全てを奪い、壮絶な死を与える計画を立てた。
ファウンドはライエン家の娘であるシールと愛し合っていた。機関としてはシールをファウンドが監視していればいい。そういうスタンスであって、危害を加える様子は無かった。
だからレイドはライエン家の母親を拉致した。彼女をフロイラに無条件に受け渡した。機関がファウンドを殺すように仕向けるために。
クアラムはレイドの凶行に慌てふためいていた。心臓の小さい男だ。こんな事でも心配で仕方ない様子だった。
だから、理由を与えた。ファウンドが機関に反旗を翻そうとしていると。ライエン家と手を組み、機関の転覆を狙っていると。母親を拉致してきたのはそのためだと言った。戦力を削くためだとか適当に理由をつけた。
クアラムはそれに半信半疑だったが、動かざるを得なかった。結果、シールとファウンドを拿捕する作戦が決行された。
作戦は概ね成功した。ファウンドは逃がしたが、シールは捕まえる事ができた。
しかし、大きな誤算もあった。
それは、妹が殺されたことだ。あの忌々しい男は、妹を何の躊躇もなく殺した。妹はなぜ、レイドの指示に大人しく従わなかったのか。でなければ、奴と剣を交える事もなかったはずだ。
妹の亡骸を前にレイドは、憎悪の炎に焼かれた。枯渇するほど奴の血を欲した。だから、より一層誓った。
奴には今生では受けることのないほどの絶望をくれてやると。それを必ず実行すると誓った。
だから、レイドはシールをフロイラによって拷問させた。ルイアにシールの残りかすを売り払った。
最後の作戦は成功した。シールの変わり果てた姿をファウンドは見つけたのだろう。シールはルイアの元からいなくなった。さぞ絶望し、嘆き苦しんだだろう。さぞ、狂おしいほどの怒りを抱えているだろう。
そして、予想通りファウンドは復讐に戻ってきた。レイドに殺されるために帰ってきた。
お膳立ては全て整った。後は奴の命を、つみ取るだけだ。
レイドの耳元に、慌ただしいく響く足音が聞こえる。どうやらついにファウンドがここへたどり着いたらしい。
こんなに楽しい事があるだろうか。こんなに嬉しい事があるだろうか。
レイドは胸の奥からわき上がる歓喜に震えながら、怨敵の登場を今か今かと待ち続けた。
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