第3の異世界/魔法少女に裏切られたマスコットな俺(魔法少女暗黒時代編)
第1章/嫌われたマスコット
第270話/巨人の少女
第270話
俺は目を開けた。だがそこは真っ暗で何も見えなかった。
(あれ。もしかして次の世界も暗闇からのスタートなのか……)
不本意ながら俺は転移に慣れてしまったようだ。起きてすぐに状況確認に努めようとするとは。
(って、いきなり何事だ!? 体中が熱いんだがッ!?)
状況確認どころではなかった。何も見えない視界の中、俺は息をすることも忘れてジタバタと動く。
(え!? え!? 本当にどういう状況なんだこれ!? 体がまともに動かせない……!?)
それは水中で溺れているのと似て非なる感覚だった。
とにかくこのまま身動きが取れなかったら……謎の発熱で死ぬ!!
「ぎゃあああああ!! だ、誰が助げで助げでぐだじゃい!! ごごがら俺を救い出じでぐだじゃい……!!」
気づけば俺は救援を求めていた。自力で助かる方法が思いつかなかった。
何も見えないから、余計に頭がパニックになりかけていた。
と、それは確かな痛みだった。
頭の上……なぜかその表現が正しいと確信できる感覚。さらにその頭の上をぎゅっと強く握られた感覚を俺は感受したのだ。
(な、何だ!? 俺の頭の上に、細長い何かが生えてる……のか!?)
細長いと言っても髪の毛ではない。髪の毛よりも太くて長い何かだ。もちろん俺に心当たりなど一切ない。
そして突如、
「!? あだだだだだだだだだだだだだだだだ――――ッ!?」
俺の頭の上にある、太くて長い何かを強引に引っ張られた。太い神経が通っているらしく、俺は悶絶しそうになった。
しかしそれは俺の体が、ずぼっと抜けた瞬間だった。
「えっ……。ツっきん……さん?」
聞き慣れない少女らしき驚声。視界は酷く眩しいものとなる。俺にはまだ少女(?)の姿を見ることができない。
だがなるほど、どうやら俺はこの少女(?)に助け出されたらしい。
「こ、こんな真夏の天気のいい日に……よく地中に潜ってられましたね……?」
「ま、真夏……? 地中に潜って……?」
少女(?)の質問から察した。どうやら俺が転移した場所は真夏の地中だったらしい。どうりで熱すぎるわけだし、体もまともに動かせなかったのだ。
「すごく苦しそうですけど、大丈夫ですか……?」
「あ、あぁ。目も少しずつ慣れてきた……ぞっ!?」
ようやく俺は少女の姿を見ることができた。そして思わず硬直した。
少女の体格が―――。
「っ!? きょ、きょきょきょきょ巨人だぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「えっ、えっ?」
「巨人の少女に食われるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
よくよく考えたら俺を地中から引っ張り出したという時点でおかしな話だったのだ。俺の体を中学生くらいの少女が片腕で掴み上げられるはずがない! それも『珍しい魚が釣れたので記念撮影しよう!』みたいなノリで宙ぶらりんの状態にさせたままになんて(不可能)!
全てはそう、巨人の少女だからこそできること!
「ぎゃあああああ! まさか転移直後に巨人のエサになるなんて! でもお前はとっても可愛いから許す! さあ好きにしろしてください!」
巨人ではあるものの見た目は中学生。ワンサイドアップの白髪や締まりのない顔立ちには歳相応のあどけなさが窺える。白のワンピースも彼女の外見にぴったりだ。清楚な印象も相まって、ドラマの子役で迷子の演技をさせたら右に出る者はいない。眉をハの字にしておろおろする彼女を誰がファンにならないというのか(反語)。
「何を言ってるのかよく分かりませんが……た、食べませんよ! というか、わたしが巨人っていったい何の冗談ですかっー!?」
「どう見ても巨人じゃないか! 化物め!」
「化物じゃないです一般人です! では返すようですけど、むしろツっきんさんこそが化物じゃないですかね!」
「何を言う! 俺は誰もが認める一般人だ!!」
断言した瞬間、少女が真顔になった。
「……、どうした?」
「一般人……って、ちょっとそれは冗談が過ぎますよ」
「???」
疑問符が頭の中を支配しかけた時、少女は俺の体を掴み上げるのをやめていた。
どでっ!
「うぎゃっ!?」
「あ。すみません気づいたら手が滑ってました」
「はい嘘! 今のはわざとだ……!」
地面に叩きつけられた俺は少女に向き直るべく、立ち上がろうとした。
そこでついに知った。
目の前には大きな窓があって、そこに映っているはずの俺の姿が、俺の姿ではなかったことを。
「なっ……? ヒツマブシ……???」
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